ニュー・アイドル・シネマ・パラダイス 『ヴィジット』

架空のラジオ番組の特別エピソードという体でやっております。


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奏「あら? 今週のお題? 今から収録するの? ……ま、いいわ。
 お題は『自分の名前で韻を踏んでください』ですって」

涼「ライムってことでいいんだよね。 『藪から棒に松永涼』でいいか?」
梅「わ。はやい」
奏「そんなにすんなり出来るものなの? ええっと……ちょっと待って。ううーん……。
 『鏡合わせの速水奏』どうかしら」

涼「お。お洒落だね」
梅「え、そ、それじゃあ……
 『白坂小梅がきたからおいで。いますぐここへ、手の鳴る方へ
 ……な、なんちゃって」

奏「あら、素敵」
涼「おおー。いいね。いいじゃん」
奏「流石はヒップホップユニットの経験者ね」
梅「えへへ……照れちゃう……」

奏「それで、お題が映画とあまり関係ないような気がするんだけど、これから観る映画にちなんでるってことでいいのかしら」
梅「あ、うん。そう、だね」
涼「よっし。せっかくスタジオで観るんだし音量大きくしようぜ」
梅「じゃあ、明かりも、ちょっと落とすね?」
奏「……好きにしてちょうだい。あなたたちと映画観ると、いつも受け身になっちゃうわね」


(映画視聴中……)


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いまどきの13才。


(映画視聴了……)


梅「に、『ニュー・アイドル・シネマ・パラダイス』へようこそー。
 この番組、は、映画好きなアイドル三人が、好きな映画、を、好き勝手に語る番組です。
 映画好きなひとも、映画好きじゃないひとも、ひとじゃないひとも、聞いてくれたら嬉しい……です。
 そ、それで、今月は、私の好きに選んだ大好きな映画、を、テーマに語ってます。あ、わ、私っていうのは、私、白坂小梅、と」

涼「松永涼と」
奏「速水奏の」
梅「三人でお送りしてます。それで……えっと……?」
奏「……あ、そうね。ええと……今週は’、小梅のおすすめの映画を収録直前に観て、その理由が……じゃあないわね。その、今週のテーマは」
涼「ダメだ。奏が進行力をなくしている
奏「……いいわよもう進行とか。そうね。ちょっとだけおさらいが必要なのだけど、先週の放送で私と涼がそれぞれにちょっと個人的な感想を言ってるのだけど」
涼「ああ、うん。そうだね」
奏「涼は自分がなんて言ったか、覚えてるかしら?」
涼「……おばあさんが敵だとなんだか怖くなる気がするって。奏は?」
奏「……子供が被害者になると余計に怖くなる気がするって」
梅「えへへ……」
奏「ハイ。そんな感想を漏らした私たちにオススメと、小梅が今週のテーマに選んでくれたのが、老夫妻がとっても怖い、子供達が酷い目にあうホラー映画『ヴィジット』ね」



youtu.be



涼「ほんとに、イイ趣味してるよなあ。小梅。本当に」
奏「定期的に『そういえばこういうコだった』て思い出させてくれるわよね……」
梅「えへへへ」
奏「えっと、説明しておかないとリスナーの皆には状況がわかりづらいかしら。
 順に話すと、先週の収録が終わったときに、『おばあさんだと怖くない』『子供が被害者だと怖い』という感想を聞いた小梅が、ぜひとも次のテーマにしたい映画があると提案をしたんだけど、私と涼はそれを観てなかったのね。
 ところが今週はお互いに予定があって観る時間を用意できそうになかった。そこで、この収録前に三人で一緒に観ることにした……という展開よ」

涼「つまり鑑賞したてホヤホヤなわけだ。奏がグロッキー入ってた理由、わかってもらえたかな?」
奏「あなただって見終わった直後は相当だったじゃない」
涼「だってさあ。私がおばあさんが敵だと怖くないっていった理由がさ……おっと。ネタバレはいけないね」
梅「ひ、秘密は守らないとダメって……ブルース・ウィリスさんと約束も、したしね……」
奏「それは別のシャマラン監督作品じゃない? まあ、ある意味じゃシャマラン作品という時点でネタバレみたいなものかしら」
涼「あの監督さん、もう偽名で作品撮った方がよくないか? 言い過ぎだろうけどさ」
梅「ふふ。た、楽しんでもらえたみたいで、嬉しい、な……」
奏「貴重な体験をさせてもらえたのは事実ね」


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「出たがり」でもちょっと有名なシャマランさん。



涼「そういや、あらすじの紹介が終わってないね?」
奏「もう。本当に進行がめちゃくちゃじゃない。

 『ヴィジット』は2015年制作のホラー映画。『シックス・センス』で華々しいハリウッドデビューを果たし、続く作品でも精緻な伏線とサプライズに溢れたシナリオ、何よりも美しい映像で熱狂的なファンを得ているM・ナイト・シャマランの監督作品。その一方で、最低映画賞とも称されるゴールデンラズベリー賞の常連にもなっていた同監督の、その汚名を雪ぐ原点回帰的作品とも讃えられる一品。
 とのこと」

涼「ストーリーの方は……まあもう、じいさんとばあさんがすごく怖い、子供たちが怖い目にあうホラーでいいような気もするけどさ。えーっと。

 主人公は15才の姉と13才の弟。学校の休みを前に祖父母からこっちで過ごさないかと提案を受ける。最初に早速言及されるんだけど、母親がこの祖父母の元から駆け落ちという形で喧嘩別れをしてて、ずっと交流がなかったんだよね。そこで、映画監督志望なお姉ちゃんが、両者の中を取り持つためにも祖父母の元で一週間の休暇を過ごすと決めて、その様子をドキュメンタリーとして仕立てることを決める、と」

梅「い、いいこ、だよね……」
涼「だね。優しいし、行動力があるのもいいよな。お話的にいえば、えっと、POVだっけ? あの、ブレアウィッチプロジェクトとか、クローバーフィールドとか」
梅「パラノーマル・アクティビティとか、ノロイとか……」
奏「Point of Viewね。ハンディカムやスマートフォンで撮影した風をよそおう……要するに撮影する登場人物の視界でお話が進むタイプの撮影方式、かな」
涼「そうそれ。ああいう感じの撮り方をする理由にもなってるしさ」
奏「正直なところPOV形式の映画には食傷気味な気もするのだけど、ヴィジットの場合はいい感じにPOVの効果がちゃんと効いてた感じね」
梅「えっと、こ、怖くても、ドキュメンタリーを撮る、って動機があるから、自分から怖いものに近付かないといけないところ……とか?」
奏「それもだけど、今回の場合は、怖いという体験がとても主観的だからかしら。なんて言えばいいのかな……お話の核が『おじいちゃんとおばあちゃんの奇妙な行動が、老人性痴呆からきてるのか、それとも何か別の理由があるのかわからなくて不気味』というところにあるじゃない?」
涼「ああ、そうだな。超少子高齢社会を迎える日本にとっても他人事でない話だ」
奏「ニュースで聞いたそのまんまみたいなコメントね」
涼「ニュースで聞いたそのまんまを言ってるからな」
奏「私たちにとっては身近な問題かも知れないけど、少なくとも、それまで祖父母と交流のなかった15才と13才にとってはそうじゃないみたいよ。
 ご高齢の方と一緒に暮らしているひとにとっては『ああ、おじいさん、耳が遠くなっちゃってるから……』で済ませてしまうような『おじいちゃん! って大きな声で呼びかけているのに、まるでこちらを無視したように小屋の中に入ってしまう』という行動が、なんだかとても意味深で不気味なものに映っちゃう」

梅「うん。うん……どのあたりまで、もうおじいちゃんだからなのか、どのあたりまで、なんだかおかしいひとなのか……なんだかわからない感じの怖さで、ずっと不安、だよね」
涼「そういえば、アタシももっとずっと小さかった頃はおじいちゃんおばあちゃんってちょっとだけ怖い存在だったな。優しくしてくれたはずなのにさ」


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祖母と祖父を持たない人間はいまんとこいない。


涼「先に言っておきたいけどさ。この映画って割と人を選ぶところがあるよな。好みが分かれるっていうか」
梅「え、あ……うーん。そう、かな」
涼「ああ、アタシは割と好きだけどさ」
奏「私も好きな方よ? まあ、人に勧められるかどうかっていったら別の話だけど」
梅「そ、そう? それなら、良かった、です。えへ」
涼「アレだぞ小梅ー。今さら一緒に観た映画が好みじゃなかったからって感想言うのを遠慮するような仲でもないだろー?」
奏「それに、元々小梅の誕生日のためこういう企画してるんだから。誕生日のおんなのこなんてこの世で最もわがままが許される存在よ?」
梅「え、えへへ……あ、ありがとう……」


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誕生日ケーキではないけれど。


涼「で。話を戻すと、この映画って割と好みが分かれそうだよな」
梅「え。うーん、そう、かな」
涼「小梅はホラー映画全肯定とかいうすごいメンタル持ってるからアレだけど。
 なんていうか、見終わった直後はさ、じいちゃんばあちゃんのキャラクターがなんか途中から変わってるような気がしたんだよな。そんな性格だったか? って」

奏「それは私も少し感じたわね。でも、改めて考えると……」
涼「そうなんだよな。変わっていく理由がちらほら思い当たる。伏線ってやつだよね」
奏「シャマラン監督はもともと『後から思うと、そういえば』みたいな伏線が特徴にある監督だけど、今作の場合は、理由がある、ということがなんだかリアリティに繋がってる気がするのよね」
涼「リアリティ……リアリティかー。あるような、ないような。ちょっとピンとこないんだけど」
梅「り、理由があるってことは、本当に起こるかもしれない……みたい、な?」
奏「そうね。そんな感じかしら。POVで撮影した由縁もそこにあるのかなって勝手に思ってるんだけど、現実にギリギリ起こりえるリアリティ、が、制作上の中心にある気がしない?」
涼「うーん。そう言われれば納得できる部分が色々あるかな。
 でもそのへんって難しいよな。頭ではわかってても感覚で理解できない部分とか、後から思い返して理解できても、後からじゃ遅いんだよー映画を観ている真っ最中に理解できてないと意味ないんだよーみたいなさ」

奏「私はそういう映画、割と好きなんだけど」
涼「そう。だから趣味が分かれそうってね」
奏「後は、現実であり得そうだから、お話そのものが小作りってところもあるのかな」
涼「そこは……まあ、それぞれかな? いやだって、怖いだろ。どこまでおかしいのかわからないじいさんばあさんが、だんだん、もっとおかしくなってくような気がするのに同じ屋根の下だぜ?」
奏「うーん。それはそうね。実際怖かったし」
梅「怖かった、ね」


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無謀な好奇心も子供の特権かしら


梅「……不思議かなってちょっと思うのは.……他人とそうでないひとって、どうやって区別が付くんだろう。
 おじいちゃんとおばあちゃんって、血、は繋がってるけど……でも、この映画みたい、に、初めて出会ったひとだと、血は繋がってても、それでも、他人とあんまりかわりない、よね?
 でも、すぐに仲良くなれたけど……でも、なんだかどんどん……変だな、怖いなってことが重なって……日が進んでいくごとにまた他人みたいにみえてきて、他人っぽくみえればみえるほど怖い存在になっていっちゃう」

奏「そう。そういう話よね。確かに不思議な気もするわね。私たちは『おじいちゃんとおばあちゃんなら安全だろう。孫たちに危害を加えないだろう』っていう前提を、知らず知らずのうちにもってこの映画を観ているのだけど、この前提ってどこまで信頼できるものだったのかしら。
 この映画の本当の怖さってそこなのかも知れないわね……『肉親なら大丈夫、という神話』がどれだけただの思い込みなのかを突き付けられるような」

梅「……うん。怖い……このひとといたら、ほっとできる……って思ってたひとが、本当は大丈夫じゃなかったらなんて、本当に起きたら……足下から壊れちゃうみたいな怖さだと、思う……」


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お互い信じ頼りあうと書いて信頼関係。



涼「あんまり茶化したくないけど、だいぶマジなトーンになってきたね」
奏「そういう映画といえばそういう映画だし、まあちょっと考えすぎな気もするかな」
涼「そうだな。でも、割とそういう感じの映画ってことでいいと思うぜ。
 アレなんだよな。アタシは小梅と奏よりちょっとだけ人生のセンパイだからさ、他人とそうでない人間の区別の仕方、わかってるつもりだぜ?」

梅「え、涼さん、すごい」
奏「興味深いわね。拝聴しましょうか」
涼「簡単だって。結局、自分の為に体張ってくれるかどうかさ。どれだけ付き合いが短くったって、血が繋がってたってそこのところ次第だよ。
 この映画でも、お姉ちゃんがさ、おばあさんがどれだけ他人にみえても、母さんのことを今どう思ってるかってインタビューを撮ろうとこだわっただろ? アレもなんていうか、奏風にいえば『愛』のために体張ってたわけだ」

梅「あいー」
奏「ちょっと待ってそれ私風なの?
 まあ、それはいいとして。確かにあのインタビューシーンは二人の立場をくっきり分けているような気がするわね」

梅「そういう意味、なら……あの、おじいちゃんおばあちゃんも、お互いの為はずっと思い合ってた……よね。お孫さんを呼んだのも、完璧な休日にするためだって」
奏「あれは愛と言うよりもエゴのようにも感じるけど……でも、そこを区別するのは野暮かしら。
 祖父母と母との愛、母と姉弟との愛、姉弟と祖父母との愛。あるいは、離婚していった父親との? それぞれの関係性も確かに、そこかしこで強調されているようには感じるかな」

涼「アタシとしては、お姉ちゃんと弟くんの姉弟愛も忘れたくないね」
梅「あいー」
奏「なんだかこの番組って、結論が『やっぱり愛』てところに落ち着きがちじゃない?」
涼「映画という娯楽がヒトを映す作品である以上、それは普遍のことさ。すごい適当に言ったけど」
奏「なかなかのご高説ね。
 でもまあ……それなら、お母さんが最後に言った言葉も、結びの結論として言っておかなければならないことだったんだなって感じるわね」

涼「潔癖症も治ったしね」


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愛ゆえに。愛あらば。


奏「さて。今宵のニューアイドルシネマパラダイスもエンドロールの時間ね」
涼「小梅誕生日特集も次で最後かー。ま、また来週な」
梅「やっつぃー!」