小梅ちゃん誕生日記念ニュー・アイドルシネマ・パラダイス 『ショーン・オブ・ザ・デッド』

架空のラジオ番組の特別エピソードという体でやっております。

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ゆんでに花束、めてにクリケットバット(Rom Zom Com



奏「今日のお題は……『好きな英語のことわざ』ですって。
 これ、アドリブでやるには難しいお題じゃない? そうね、私は……Beauty is in the eye of the beholder かな?」

涼「最初に浮かんだヤツでいいなら Same Shit Different Day とか」
梅「え、えっと……dogs can't look up……?」


奏「さて。ニュー・アイドル・シネマパラダイスへようこそ。
 この番組は、私、速水奏と」

涼「松永涼と」
梅「白坂小梅、の」
奏「三人の映画を愛するアイドルが、愛する映画を、愛らしく語るトーク番組です」
涼「そんな番組の冒頭で、Sから始まる4文字の言葉を言っちゃったんだけど、不味かったな?」
奏「アドリブはこういう事があるのよね……そんな愛らしい当番組の、今月の特集は『ホラー映画』」
梅「……わーい。愛らしいー」
奏「なんでホラー特集かというと、みんなもう気付いてくれているかしら? 今月28日は小梅の誕生日なの。この特集は、私たちやリスナーからのささやかなプレゼントね」
梅「わーい」
涼「要するに、今月のテーマ映画は全て小梅の選択、と。なかなかハードな一ヶ月になりそうだね」
梅「えへへ……ゾンビは可愛いし、番組的、にも、いいよね……? いいよね?」
奏「んー。そうねー。愛する映画を語る小梅の愛らしい姿を愛でる。という具合に一月過ごしていこうかしら」
涼「ハードな一ヶ月になりそうだね」
奏(……この企画の発案はアナタだからね?)
涼(思いついたときは名案だと思ったんだよ……小梅が喜ぶなーって)



涼「ハイ。それで小梅、今週のテーマはなんだっけ?」
梅「あ、うん。えっと、ショーン・オブ・ザ・デッド……です」
奏「『ショーン・オブ・ザ・デッド』は2004年にイギリスで公開されたホラームービーね。
 監督エドラー・ライト、主演はサイモン・ペグ。パロディながらも、ゾンビ映画の原典と称されるロメロ監督の『ゾンビ』を下敷きにした展開はホラーの定石をしっかりと踏まえて、多くのホラーフリークのハートを射止めたそうよ。
 日本では劇場未公開ながらも、そこはそれ。蛇の道は蛇的に、ゾンビ愛好家の必須教養みたいな知名度を勝ち得ているフィルム。とのこと」


youtu.be


涼「そこそこの仕事と、ダメ人間だけど親友のルームメイトと、恋人とを持っていたショーンはそれなりに恵まれながらも変化のない日常をだらだらと過ごしていた。ついには恋人にその無気力をたしなめられるけれど、煮え切らない態度を変えることが出来ず、あげく彼女に愛想を尽かされ振られてしまう。失意のまま親友とヤケ酒を煽ったその翌朝、いつのまにか世界はゾンビで溢れていて……というのが筋書きかな」
梅「うん、うん……ほんとに……大部分がコメディで、パロディだから、ゾンビ映画そのものを、えっと……茶化すようなシーンも多いんだけど、でも、ちゃんとゾンビ映画で、この監督はきっとロメロ監督のことが大好きなんだなって伝わってくるような……いいホラー映画で、大好き……」

奏「そうね。小梅的にはゾンビ映画のお約束というか、大事な要素ってどのあたりかしら?」

梅「え、えっと……あの、い、いつもの風景が壊れていくところとか……安全な場所についたはずなの、に、それが壊れちゃうところ……あとは、うーん……たくさんヒトが死んじゃう話でも、それでも死んでしまうと悲しいヒト、というか、別れの悲しさは描いてほしいし……」
涼「面白兵器でなぎ倒したりは?」
梅「あ、うん。それもあったら嬉しい……ショーンオブザデッドだと……クリケットバットがそれっぽい?」
奏「よその国の伝統球技を面白兵器扱いしない方がいいんじゃないかしら。でもまあ、当のイギリス人が率先して面白く取り扱ってる気はするわね」
涼「ともあれ、そうやってシーン一つ一つみていくと、ゾンビ要素は完璧に近いなーこの映画」
梅「うん。ほんとに。ほとんどカンペキ……いちばんだいじな、グシャってなるシーンも、ばっちり迫力満点」
奏「そんな一つ一つのシーンが、ゾンビムービーとしての要点を押さえたシーンでもありつつもコメディという大前提を忘れず、面白おかしく描かれているところがこの映画の人気の由縁かしら」
涼「そうそう。ちゃんと笑える。ブリティッシュジョークってやつかな? 毒が利いてるんだよねー」
奏「私は、彼らがダニーエルフマンにした仕打ちを忘れるつもりはないけど。お話の結末もホント強烈な皮肉よね。さすがはニートという言葉を生んだ国」
梅「あ、うん。社会問題? に、触れるのもゾンビ映画で割と大事なところ……かな」


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クリケットバット(面白兵器ではない。


涼「この映画の好きなところ。アタシは絵作りのかっこよさも褒めたいな。オープニング付近のカメラが横に流れていく絵面とか、すごいスタイリッシュだよね」
奏「そうね。音楽の使い方も、意外な選曲まで含めて映像ときれいに合わせてるわよね」
梅「どんっすとっぴーなーう♩」
奏「あのシーンは出来すぎとしても、ね。確か実際にミュージックビデオも手掛けてたんじゃないかしら。イギリス出身の映像監督にはそういうひと、多い印象があるけど」
涼「MTVがすっごい力持ってた時代と重なるんじゃないか? そのへんはあんまり詳しくないけど」
奏「ああなるほど……そういえば、同じくイギリス映画のダニー・ボイル監督も『MTVみたいな映画だ』と批判されて『光栄だ。あの頃のMTVはあらゆる意味で全盛期だった』って回答してたわね」

「あ……あああああ!!」

涼「ど、どうした小梅!?」
梅「あ、あ……うん。ごめんなさい。あの……今日が一日で、私の誕生日、28日後だから……今日のテーマ『28日後……』にするっていうのも、佳かったかなって、き、気付いて……」
奏「ああ、ダニーボイル監督のゾンビ映画ね……。ま、それはまた後日」


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「最初にゾンビを走らせた映画」と称される事もある作品


奏「この映画みて思ったんだけど、いいコメディと、いいホラーって近いところがあるかもしれないなって」
梅「?」
奏「そうね。なんとなくなんだけど……まず登場人物にしっかり役割を持たせて、キャラクターとして立たせるところかしら」
涼「あー。わかるなそれ。なんていうか、嫌なキャラでもさ、空気の読めなさや頑固さみたいなのも変なリアリティがあるんだよなーいい意味で。あとさ、アタシってニックフロストの演じてた、エドみたいなキャラが案外好きなんだよね。ダメな部分がずっと目立つし役に立つこともほとんどないけど、どこかいっつも余裕があって、酷いピンチでも皮肉を忘れないし、基本は友達思いで。一貫してるというか、スジが通ってるっていうかさ」
奏「あら。そういう意味じゃ私はショーンに魅力を感じるわね。優柔不断ではあるんだけど、彼の行動原理はずっと愛の為なのよね。家族愛、異性愛、友人愛……シャツ姿で走り回ってる男性ってセクシーじゃない?」

梅「あ。オトナの話」

奏「小梅も遠慮無く混ざっていいのよ? カワイイなって思った登場人物とかいない?」
梅「え、ええー……えーと……えーと……あ。あの、酒場の付近をうろうろしてた、双子? の、ふとっちょさんのゾンビとか……可愛かった……」
奏「んん。本気なのかはぐらかしてるのか追求するのはやめておきましょうか」
梅「うん。でも、奏さんの言ってること、だ、大事だと思う……誰かのためっていうか、なんでゾンビから逃げたいのか……助かりたいのか。そこがしっかりしてるの、大事……だと思う」
涼「そうだなー。死にたくないって思うからこそ緊張感も生まれるわけだ」
奏「そう。荒唐無稽ではあるんだけど、一方でリアリティは必要だったりもする。そのあたりは脚本の力というよりもディレクションの力なのかな……?」


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発揮せよリーダーシップ


奏「ホラーでもありコメディでもある。そうやってみると、コメディは緩急差が大事っていう話を聞いたことがあるけど、ホラーも同じような事が言える気がしてくるわね」
涼「ああ、それな。ホラーじゃ常套手段だろ? こう、来るぞ来るぞーと緊張させておいて、通り過ぎさせて、一度ホッとさせたところに」

「わっ!!」

涼「……って来るやつ」
梅「えへへ……」
奏「.……マイクが心臓の音、拾っちゃいそうよ。ええと、そうね。ホラーとコメディとは手法に似通った点がある。もしくは相性がいい、みたいな話になるのかな」
梅「き、急にコメディーっぽくなった、悪魔のいけにえの、1と2の話、する……?」
奏「それはまあ、また今度。実際、この後にエドガーライト監督の撮った、このショーンオブザデッドが第一作になった三部作も、どれもコメディなんだけどホラーの雰囲気もあると思わない?」
梅「うん。思う。思う」
涼「『ホットファズ』と『ワールズ・エンド』だったよな。どれもこれも好きだなー。確かに、ホットファズはアクションだけどサイコホラーっぽいし、ワールズエンドはSFでホラーだね」
梅「ゾンビ、と、ガンアクション、と、SF……すごい監督さんだね」
奏「特に、ホットファズのあのスローモーな銃撃戦はあらゆる映画作品のなかでも必見のできばえなんじゃないかなって私は思うわ」
涼「力説するね……まあ同意するかどうかは各人の胸のなかに留めておこう」


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コルネットとは欧米で有名なアイスのことみたい。


涼「三部作ね。スリー・フレーバー・コルネット・トリロジーっていうんだっけ?」
奏「らしいわね。三つの味のアイスクリーム三部作。三部作と言われて確かに納得する部分はあるんだけど、監督と主演と助演の三人が共通している他に、具体的にどのあたりがテーマとして通じているのかと言われると……?」
涼「確かに、パっと思いつくテーマみたいなものは……そうだな。スタッフ以外の共通点というと……舞台が片田舎、悪友との関係……くらいか?」
梅「フェンスを乗り越えようとして、転けちゃうシーン……とか」
奏「友達は大事よね。っていう風にも感じるけど、たいていの場合その友達は酷い目にあっちゃうしね。ワールズエンドの結末も、ある意味では友達をみんな置き去りにしているわけだから」
涼「そうだなあ。アタシはなんだか。こう……『そう簡単にオトナにはなれねーよ!』みたいな話に感じるかな。どの話でも主人公は、好きなものにこだわりすぎてこじらせちゃってるというか、その部分が話を進ませるきっかけになってるよな」
奏「ワールズエンドはそれそのまんまね。学生時代にやり残した酒場巡りをやり遂げようぜーっていう話だし。青春を卒業しきれないオトナの話。そうしてみると、なんだか如何にもギーク映画って感じになるわね」
涼「ロックのテーマの一つだね。オトナになんかなってたまるかーって」
梅「たまるかー。
 わ、私の場合、は……えっと、『好きなものは簡単には諦められない』とか、好きなモノはずっと好き……みたいな? あ、あきらめちゃった方が、楽だったり、あきらめることの方が、きっと正しかったりする……んだけど、でもやっぱり、好きなモノは好きって……」

奏「なんだか、身につまされる話になってきたわね。そうね、少し意地悪な見方になるけど、人の必死な姿ってそれだけで心を打ったりもするけど、それだけで滑稽だったりもするのよね。そこのところを思うと、さっきのホラーとコメディとの相性の良さって話に繋がる気もするわね」
涼「うーん。ま、アレだな。一生懸命な姿がドラマを生むってことにしとこうぜ」
梅「いっしょけんめー」
奏「異議なし。ね」


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助演・主演・監督(仲いいな。


涼「さて。ニュー・アイドル・シネマパラダイスもそろそろエンドロールの時間だね。
 お別れは、ショーン・オブ・ザ・デッドのなかで、小梅が一番好きなシーンの紹介を」

梅「え、えっとね。あの……眼鏡の、デービッドさん、が、『そこから離れなさい!』って、お、怒られたあとに――」
奏「それじゃ、また次の夜に逢いましょう」


>>第二夜は『死霊館tehihi.hatenablog.com