伝わる・伝える。みたいなポケモンのMV「GOTCHA!」の話。画面越しでもさー。

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 愛しか感じない。みたいな作品評にちょっと思うところがあってさ。
 その作品がどれだけ優れているかの判断基準を、もしくは結論を「愛」にだけ求めるのは諸々支障が生じそうというか。愛を人に伝えられるか、伝えきれるかどうかってのも、結局は技術に左右されるところがある。技術があっても費やす時間がなければ完成には至らないよな。だから、技術が稚拙だったらば、コストに限りがあったらば……伝えきれない愛は愛じゃないのかどうなのかとか。だからこそ、誰かに愛を伝える・愛を表現するために人々は技術を磨いたりなんだりするわけで。
 つまり。
「愛しか感じない」という評価は、優れた技術と情熱とコストによって、よりロスの少ない、高純度な愛を表現し伝えきった作品であり、だからこそ受取手は「愛しか感じない」ことができたわけで……。
 ん? あれ。
 じゃあいいのか別に。
 じゃあいいか。
 まあそんなことよりGOTCHA!の話しようぜ。



 およそ2分半に凝縮された25年間。怒濤の情報量で視聴者の感情をオーバーフローさせるのは昨今よくみられる手法であるけどもそれにしたって受け止めきれない感情が涙腺から溢れ出してくる傑作MVに感じます。
 作中各種ちりばめられたオマージュはもっと詳しい人に任せるにしても、ほんとにしたい話をするにも映像の振り返りをしとく必要があるんで、個人的に「ここ好き」ポイントを列挙していきたく思います。ざっと眺めてってください。



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「おとこのこがせんろのうえをあるいている……もういかなくちゃ!」てのは初代GBで実家のテレビを調べたときのメッセージ。
 でもおれスタンドバイミーみたいことないんだよな(同じ男子四人のキング小説映画のドリームキャッチャーならみたよ!



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 これもゲーム本編でのお約束めいた演出。テレビをみて「もういかなくちゃ!」というシーン。
(スタッフロールにはこれまたお約束の任天堂ハード最新機が確認できなかったけどもたぶん主人公の自室にある)



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 男子はTシャツに青空のモチーフで、おんなのこはバッグに青空。
 ポケモンの歴代女子主人公は、おとこのこに比べて大きなバッグを持ってるのが共通した特徴ですね。

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(あと健康そうな脚)


 ジムトレーナーさんのコーナーを最初に持ってきて、ポケモンの各タイプを列挙して世界観説明も同時に済ませちゃう手腕。

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 ただ、このシーンの時点でとても大事な「画面越し」というモチーフが出てきてる。



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 岩タイプの面々イチオシ。
 各トレーナーさんが主人公らの動きを追いかけて、笑ったり応援したり。ほとんど数コマずつの出演なのに賑やかで見飽きない。



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「うたお」なんてコレほんと何フレームだろ。歌詞と連動してMVとしても面目躍如だ。



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 MVのストーリー的には、一度ここで相棒とはぐれてしまう。



 画面の白黒さは初代GBのモチーフかなと思うけど(ポケモンの影が初代にだけで限定されてる?)ちょっとわかんない。
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 悪役さん連中も世界を形作る大事なピースだ。シルエット(影・裏側)だけの登場ってのがまた心憎い。

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(このときはレインボーだったけどさ)


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 走ったり転けそうになったり手を引っ張り合ったりで、歴代主人公達が大急ぎでみんなしてどっかに向かってるのは、「過去作も引っ越し(データ引き継ぎ)てこれるよ」て表現かしら。




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 ちょっと驚いたような仕草で画面へ向かって立ち止まるXY主人公。
『てれれん!!』と回転暗転したのは「くさむらからとびだしてきた!」か、それとも「めとめがあったらポケモンバトルだぜ!」て意図かな。


 で。ここから明確に、歴代ポケモン名シーン集に以降。
 チャンピオンズ&相棒達を最初に持ってくるのは、旅の目標(スタート地点)て表現?

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 色彩設定を大きく変えてあるのはTVアニメシリーズに寄せる意図なのか、それとも、『MV主人公たちとは違う世界』と表現するためのものなのか。




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「こんな楽しい時間、簡単には終わらせない!!」が名台詞過ぎるシロナさん。




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 袖だけでアイリスだとわからせるの天才。
 そしてチャンピオンだからっつってアデク&アイリスをハイタッチだけで表現するのいくらなんでも天才過ぎやしませんか。

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 この特徴的な袖。

 ブラック・ホワイトは執筆現在、唯一「2」としてナンバリングタイトルな続編のでたポケモンて予備知識を置いといて。
 アイリスは1では 愛すべきロリ ジムリーダーとして登場し、3年後となる2ではチャンピオンを継承した姿でプレイヤーの前に登場する。それを、先代チャンピオンとのタッチで表現してるんですよ。な? このMV天才だべ? 天才だべ?


 ライバルたちのコーナーに繋がっていく。

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 作品では度々何かと理由を付けて対戦するけど、このMVではみんな主人公と同じ方向みてるのステキ過ぎ。



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 好き。
 純粋にカワイイ。
 このカットほんと好き。
 好き。



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 だから(ブラック・ホワイトのキーパーソンであるとこの)Nを白と黒だけで描くとかいう天才っぷりを軽率に発揮するのヤメロぁ!




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 よりによってチャンピオンロードの最後に待ち構えるくん。
 ほんとこの一瞬で「あの場面だアーーー!!」てわかるのスゲ。



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 チャンピオンからライバル達の流れのトリを務めるのがそのどちらでもあるヤツという配役よ。



 さてこっからちょっと度を超して贅沢な時間。

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 ギュルルと登場したカメックスの!

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 ハイドロポンプでガードをぶち抜かれたバンギラスを!

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 しっかり「もういい! もどれ!」してから!

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 歯を食いしばりつつ次のポケモンを!

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 投げたモンスターボールからハイドロでぶちまけられた水を跳ね散らかしながら登場したデンリュウの!

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 放った電撃に!

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 うおやべ。とカメックスが受けた余波を!

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 にらみ据える初代主人公が!!!
 はいここまで大体4秒か5秒! コマ送りじゃねえとわかんない演出多くない? 
 この短時間に凝縮された、「もしかすると勝ち目のないかも知れない強敵に挑む男子と、堂々とそれを受けて立つ男子」という絵面!! やっぱ制作陣も「ココ大事!!」てリキの入ったシーンなんでしょうか。

 いやあでもほんと、キャップと半袖姿の少年が、その格好に不似合いな雪山に佇んでいるというだけでもうウオオオオーっつって火傷しそげな感涙流しつつスタンディングオベーションな気分になれるのはもうその経験をした連中にだけ許された特権でさえあるように思う。




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 跳ね飛ばされたキャップはそのまま、世界を渡って主人公が(?)受け止める。
 このシーンもスゴい好き。後ろに映り込むカイオーガの影。

 正直なことをいうと、最初の最初にこのMVをみたとき、ピンとこないところがあったのだ。
 人物に強くフォーカスしてて、ポケモンが二の次になってたりしないだろうかっつって。
 それが誤りであったと気付かせてくれたのがこのシーンだった。
 それと……あながちその印象もまちがいってわけでもなかったんかなーてのは後述する。


 もちろんグラードンも。
 おじさんがいちばん真剣にポケモンバトルやってたのがちょうどルビサファのころでさ。
 晴れパvs雨パの争いがポケモン世界そのものを支配してて、それこそゲーム内のストーリーをメタ的に内包しててアツかったのだ。

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 ところで。
 このシーンと、ここまで振り返るに、MV主人公達は(相棒を除いて)ポケモンの存在に気が付いてないような素振りで描かれている。

 雷を偶然避けて。
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 やけどをなおしてもらってる(?)相棒と、
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 ついでにそれを溶かしてもらってる(?)相棒とに気付いてない感じ。
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 その演出意図はー。

・まだ(旅を始めてない主人公達は)彼らに出会ってないから。
ポケモン世界と主人公らのいる世界は別だから。

 の、どちらかかなと思うんだけど。結論は後で述べるとして。
 それでも、主人公達はその存在に気が付いてないけれど、それでも(雨と太陽として)影響を受けている。
 そんな描き方がなんかスゴいスキ。



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 ここでも「画面越し」という演出がちらりとだけ挟まる。
 またポケモン世界のシーンに移るよというシークエンス表現でもあるかな。
 音楽のサビ入りと重なるあたりほんと演出の力よね……。



 最新作はさすがにちょっと特別扱い。

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 ポケットモンスター性&癖。



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 ドローンロトムでの撮影なのは、次のエキスパンションではジムリーダー総出演オールスターバトルをやるそうなので、それの予告も兼ねた『選手入場!!』なシーン表現てことでいいのかな。



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 ハイ笑顔(むにゅ。
 ほんとうにもー『受け止めてみろ!!!!』と言わんばかりの情報量。



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 おれの最愛ポケモンであるとこのカビゴンの出演シーン。



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 背番号227は初代ポケモンの誕生日だそうですよ(気付かなかった。
 主人公の男女が自然にスイッチする演出いいよね……。

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 おとなもこどももおねーさんもって事よね……それは別のゲームだけど……。
 表情を変えたりなんだりでちゃんと気付かれるための工夫は為されてるけど、それにしたってこの「ギリギリだけどちゃんと伝わる」ラインの攻めっぷりがほんとイカス。




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 バトルの最中に跳ね飛ばされたもう一つのキャップが、また主人公に画面を越えて伝わる。
 初代の帽子と、最新作の帽子。

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 二人はたぶん初対面かな。
 ポケモンを通じて出会って繋がる関係。

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 言い合ってるシーンにみえたけど、どっちかってっと男子が相棒に文句言ってるシーンぽいしね。




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 そしてとても意味深な、きっと大切な「画面越し」というシーン。



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 画面越しから「見守って」くれていたのはポケモン世界のオトナ代表こと博士達と。そして各シリーズで必ず、最初の相棒として、旅のきっかけをくれる御三家たち。



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 帽子が、最初に拾った当人から「ポケモンのもちものとして」いつのまにか交換されあう。
 そうだね。かがくのちからってスゲー方式で今ではとても簡単になったけれど、交換ってのはポケモンを構成する大事な要素だ。



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 そして各々のポケモンによってその帽子を被せられるって演出がもう。ああもう。なあオイ。なあ?



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 帽子ってのはとくに初代主人公のトレードマークだけれど、特に昨今、熱中症対策として外出には必須の、少年少女にとっての冒険の象徴だ。
 それを、画面の向こう側から、ポケモン世界から受け渡される。そして主人公達は旅立っていく。



 で。さて。とても野暮なことをこれから言っていく。
 言わずもがなの、言わなくったって伝わることを言うこと以上に野暮いことなんてそんなにないからね。


 このMVでは、細かく、さりげなく、ポケモンのMVだけど、主人公らのいる世界とポケモン世界とが隔てられているよう表現された演出が差し挟まれている。
 画面の向こう側から応援するトレーナー達。
 相棒を除いてだけど、ポケモンの存在に気が付いてない風の主人公ら。
 シルエットで駆けていく歴代主人公達に、名場面のシークエンスでは色彩が変えられてて。
 画面越しにみつめてくるのはポケモン世界の住人達であって、主人公二人はそちらをみるシーンは一度もない。
 主人公二人を、プレイヤーである私らと重ね合わせるならば、ゲームを遊ぶ私らとはいつもと逆転の構図で描かれているのがちょっと面白い。

 これがどういうことかというと。
「見てばっかだと思ってただろうけど、こっちも見てたんだよ」ってことだ。
「気付いてないかも知れないけど、いつも見守ってるよ」ってことだ。

 これが、25周年に、ポケモンの制作陣が用意したメッセージなのだ。

 ポケモンをきっかけに出会って、繋がって。
 ポケモンをきっかけに旅に出る。それが制作陣の自認なのではないか。

 それが証拠に、主人公(プレイヤー)は、画面の向こう側から冒険の象徴を渡されて、それを受け取り、被って、旅立っていく。
 この2分半のMVを、25年間を、だから、一言でまとめるならばきっと「いってらっしゃい」て言葉になるのだろう。 


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 あー。エモいぜ。