大洗女子がなぜその戦車に乗っているかをメタ的に。

 ガルパンの選んだ工夫のひとつに、「戦車をキャラクターとして描く」というものがあると思う。
 戦車の性能のみならず、それの搭乗員も、個々人を丁寧に描くというよりかはチームとしてひとまとめにしたうえでキャラクターとして扱う。そんな工夫。
 であればこそ、国籍問わず集められた大洗女子の戦車たちには、その戦車が選ばれ、その戦車の搭乗員が選ばれた理由がそれぞれにあるはずです。たぶん。
 なぜ主人公がⅣ号戦車に乗るのか。なぜバレー部が八九式でなぜ生徒会が38(t)なのか。
 そのへんを各戦車の来歴覚え書きをだらだら垂れ流しつつ、探っていきたいと思います。



Ⅳ号戦車 満たされた主人公の器。

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 戦車大国ドイツにおいて、二次大戦の初めから終わりまで最も多くの戦場を経験した戦車――という実際大層な肩書きの割に、ドイツには他にティーガーだのパンターだのとあまりに有名で伝説的な存在があったため、その陰で「知る人ぞ知る」みたいな知名度に甘んじていた傑作戦車。

 Ⅳ号というからにはもちろんⅢ号戦車もいて、本来、ドイツ電撃戦の主役になるはずだったのはそのコだった。
 しかしこのⅢ号。開発の遅れなどが影響し対英でも対ソでも対仏でも敵車輌撃破に苦戦してしまう。一方、火力支援というコンセプトで設計されたⅣ号戦車は砲の大型化を受け入れる余裕があった。
 二次大戦において急騰した「対戦車」という用兵上の要求を担うため、また、兵器としての配備数を満たすため、砲撃力と生産性とをバランス良く兼ね備えたⅣ号戦車は、数多くの改修を受けながら、機甲師団の主力として第三帝国の滅亡の日まで二次大戦を戦い抜くこととなる――。

 と。いうこれらあらましをまとめてみると。

  • 将来を嘱望された兄の背後にそっと控えていた弟分。
  • しかし兄の失敗を補うために自らが最前線にたつ。
  • そして才能を見いだされ、次第にエースとして認めらていく。
  • だがそれは苦境に立たされた国を救うために数多くの修羅場を経験するということであり……。
  • 自らの力が及ばない戦場にあっても撤退は許されず、最期まで最前線に立ち続けた。


 ほら。ものすごい主人公っぽい。
 華々しい活躍の陰、という立ち位置がそもそも西住ちゃんっぽいところがあるし、気がつけば主人公という巻き込まれ型もそれっぽく、改修を受けて初期型とは正直別物とまで性能がチューンされていくところなんかロボものの王道そのものじゃないですか。

 他にもこのⅣ号ちゃんが主人公機に選ばれるに相応しい車輌だった点があり、

・3人乗りの大型砲塔を実装し、搭乗員によるチームワークの重要さを世に知らしめた戦車(Ⅲ号戦車と同時期だけど)。
・搭乗員の安全性に考慮して脱出口を設けたのか、色んなところがやたらとぱかぱか開く(五人が思い思いのところから顔を覗かせている絵面を連想しよう。

 等々。主人公機であることに納得ばかりが先行しますが、誰もが知る花形戦車でなく、敢えてⅣ号を選んだのは水島監督の肝いりだそうで。慧眼と評さざるを得ません。

 ちなんで、ある意味では主人公の座を蹴落とされた感じのⅢ号戦車はガルパンでどうだったかというと、マウスの後ろでやーいやーいと粋がってたら流れ弾にあたって退場、というアレだったりする。




M3中戦車リー 7人乗りのかしまし戦車。

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 失敗戦車……とかいうと色んなひとから怒られる。

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 実際のとこ、戦場でも賛否両論だったというか、そう扱われるくらいちぐはぐな面の目立つ戦車だったらしい。
 まず開発経緯からして少々ちぐはぐ。
 二次大戦緒戦、ドイツの電撃戦にびびったアメリカは慌てて戦車開発に乗り出すものの、「対戦車砲とかいう大重量を砲塔に乗っけて、しかもそれを回転させるとか、いきなり開発できるもんなの?」という不安があった。
 一方で、ドイツから散々痛い目をあわされている真っ最中のイギリスが「お前んとこの工業力で戦車造ってくれよとっとと」とせっついてくる。
 連合国を慌てふためかせるほどに、ドイツ電撃戦の侵攻スピードが当時の常識から大きく逸脱してたという話でもあるかも知れないけど、ともあれ「それじゃあ対戦車砲は限定旋回方式にして、全周型の副砲を乗っけて、ついでにイギリスの注文に応えて通信設備を実装して……」と急造されたのがこのM3中戦車ちゃんだった。

 あくまで「まにあわせ」「その場しのぎ」のつもりだったんだけど、イギリスに急かされたこともあってやたら大量に製造してしまい、様々な国にレンドリースされた結果、色んな戦場に紛れ込んでしまった。

 ところ変われば戦争も変わる。その評価がちぐはぐな所以は国によって求める性能に違いがあったからこそ生まれたものらしい。曰く。

  • 榴弾を使えるのがいいね!(イギリス戦車が榴弾を使えないことのがおかしい気はする)
  • 機械的信頼性高くて故障がないのがいいね!(イギリスの巡航戦車が故障しすぎという話もある)
  • 通信装置の質がいいね!(なのでソ連兵はこの戦車から通信機だけ引っぺがして使ってたらしい)
  • 牽引車として改造したらすげー使い心地いいよ!(もはや戦車ではない)

 悪いところをあげれば。

  • 主砲と副砲と用意されたところで指示しきれないし……。
  • 対戦車用の主砲なのに旋回させられないから脚で攻めてくるドイツ戦車に太刀打ちできないし……。
  • なんかノッポで目立つし的にされるし……。
  • ぶっちゃけ七人乗りの棺桶。

 等。ついでに、このM3中戦車は日本軍とも交戦経験があるらしく、日本兵からの評価はそのでかさも相俟って畏怖をまき散らす巨人のようにみえたとかどうとか。
 場所が変われば戦争って変わるもんですね。

 等々と。ちぐはぐさと、6人で登場するかしましさまで含めてその場の雰囲気に生きる一年生チームが搭乗するにとても相応しい車輌(それでも最大搭乗員数まで一人足りない!
 それを指揮する澤ちゃんの苦労も偲ばれるところではありますが。



八九式中戦車 飛ぶことをあきらめないアヒル。

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 惜しい。実に惜しいんだけど。
 先にバレー部ことアヒルさんチームの話をしてもいいですかね。
 何事も「根性ー!!」で解決する癖のあるキャプテンに率いられるアヒルさんチームは、そのありあまる体育会系気質からか、あるいは廃部という挫折をすでに味わっている為か、どうやら練習量が抜きんでているらしく、戦車道始めたての他チームと同期のはずなのに一歩や二歩ほど抜きんでた練度を作中の折々にみせています。
 いちばんわかりやすいのが命中精度。行進間射撃でさえ割とばんばん当ててたりする。
 単なる練度だけでなく、バレーの符号を用いたセットプレイの研究も旺盛で、逆境にもへこたれない精神力、命令に忠実なチームプレイ精神、そして性能差を言い訳にせず常に勝利を望む鋼の向上心……。
 実際んとこ、悲願かなってバレー部復活したらかなりええとこまで行けるんちゃうかなーと思えるくらいの努力の天才っぷり。
 搭乗員の人間的性能という意味では作中屈指の能力を有する彼女たちは、何が惜しいかというと、そりゃもう八九式に乗ってると言うこと自体がもう惜しい

 八九式の何が惜しいか。
 まず砲撃力がない。そもそも戦車戦を考慮に入れられてない砲門は弾速に乏しく、装甲を貫くだけの運動エネルギーを得られません。
 そんで装甲がない。そもそも重機関銃さえ受け止められないその薄い装甲にかわいらしくびっしりとまとうリベット留めは、被弾により鉄板がたわむとその歪みで弾けて外れ、中で飛び跳ね搭乗員に負傷を負わせる原因にさえなります。
 あと速度もでない。戦車に乗っけるにあたって何かと利点の多いディーゼルエンジンを先進的に搭載したはいいものの、ガソリンエンジンと比較して馬力が出せず、何より工業力がまだまだ発展途上だった日本は高出力化も果たせなかったそうで。
 さらには改良の余地もない。そうしたキャパシティに不足してると史実で判を捺されている。

 要するに、何もかもに欠ける八九式中戦車だけど、それもしょうがない。単純に型遅れな品物なのである。他のガルパン登場車輌が軒並み「二次大戦初期もしくは最中・後期」に開発された車輌なのに、八九式ちゃんはいわゆる戦間期、二次大戦前に開発運用された機種なのである。
 誤解を承知で例えるならば、高校生の試合に中学生が参戦してるようなものでしょうか……いや、小学生かも。

「どうやったら活躍できるの?」と放映最中から疑問のあがる勢いな八九式ちゃんだけど、実際んとこ(どこで聞いたか覚えてない話だけど)制作スタッフも「どうやって活躍させよう……」と頭を抱えていたらしい。
 当然浮かぶ「そもそもなんで参戦させたの?」て疑問には(これもどこで聞いたか覚えてないんだけど)監督が実際に乗ったことのある車輌だからーというお話が。

 しかし、その一方で、性能的にどうしようもない八九式中戦車という車輌が、公式試合で、並み居る傑作選車相手にどうにかこうにか立ち回ってみせるという、そのロマン。
 戦車道が持つロマンの一端を担っている戦車であることにはまちがいないでしょう。

 まとめると、根性がなければどうすることもできない車輌に、
 根性でどうにかしてきたバレー部員が搭乗している。この美しさ。
 しかもこのバレー部キャプテンがちびっこなのが、また。




 

Ⅲ号突撃砲 長所も短所も用兵次第。

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 通称三突ちゃん。ドイツのⅢ号戦車を突撃砲に改造したからⅢ号突撃砲
 厳密にいうと戦車ではなく、突撃砲
 どう違うのかを一言でいえば「回転砲塔がない」という点さえ抑えておけば大体大丈夫です。大体。例外も多いけど。まあ大体。
 同じく砲塔がない戦車でも「駆逐戦車」という形で戦車扱いされてたりもするんだけど、このへんの説明は追々。

 旋回式砲塔を持つことの利点は先に述べたとおり。だけど、これを取っ払い、車体に直接大砲を乗っけることはそれはそれで無視できない利点がいくつかあります。

搭載する砲をワンランクでかくしても平気。

 簡単に言えば砲塔を取っ払った分だけ重たい大砲を乗っけても大丈夫になるという話。
 多少詳しくいうと、砲塔に長く重く攻撃力のある大砲を乗っけたくとも、それを旋回させるメカニズムに相応の負担がかかるのでやはり限界がある。エンジン出力だとかウェイトバランスとかの兼ね合いもあるしね。

軽くなった分だけ装甲を厚くしても平気。

 上記のと併せて、要するに、簡単に軽量化可能とまとめてもいいかも。
 同じエンジン、同じ車体でも、突撃砲(駆逐戦車)のが装甲厚も砲攻撃力もワンランクアップさせられます。

生産性が上がる。

 複雑な砲塔部分のメカニックをすっとばして作れるわけですから。
 戦車道にはほとんど関係のない話だけど、兵器としてみるならとても大事な点。
 先に、ドイツ機甲部隊において主力を勤めたⅣ号戦車ーみたいな話はしたけれど、それは「戦車に限るなら」という話で、戦闘用車輌という区分でみるならドイツで最も生産された車輌が三号突撃砲になります。
 大洗で売れ残ってた理由もたぶんそのへんの割とありふれた車輌だったからじゃないかな。


 欠点はやっぱり射角が限られてしまう点でしょうな。
 車体ごとキャタキャタキャタと旋回しなきゃ撃ちたい方向へ撃てない。
 接近されて側面へ回り込まれたらなかなかどうしようもありません。

 要するに、「足回りが不便になる代償に、攻撃力と防御力を向上させた」みたいな性能に収まるわけで、運用の仕方さえ間違わなければツボにはまる性能となっております。
 史実の三突ちゃんもそうでした。
 敵の侵攻ルートを先読みし、待ち伏せの一撃。
 あるいは同ランクの戦車よりも厚い装甲を活かし拠点侵攻。等々。
 何せ二次大戦緒戦では敵車輌の重装甲に散々泣かされたドイツ軍です。生産性が高く、かつ対戦車能力の高い砲門を積める兵器となれば大急ぎで開発するに足る存在。
 大洗にとっても、戦力が強化されるまでは頭一つ抜き出た砲撃力を持つ車輌であり、「良かった……三突ちゃんが大洗にいてくれて、本当に良かった……」てシーンが少なからずありますね。

 策にハマればコスト以上の働きをみせてくれる、という点では、そのへんの戦術史にも造詣の深かろう歴女チームが搭乗するに相応しい車輌ともいえるでしょう。
 策を弄しすぎて策に溺れるのはまあご愛敬として。



 残りの車輌についてはまた日を改めて。