追加で戦車戦のこのへんが面白いんじゃないかなという話。

 言葉で語らず絵で語る。
 ガルパンはそういう作品であります。
 選んで黙されたそれら部分をわざわざ掘り起こし語り直すという野暮を犯しているよーな本記事ではありますが、気のせいということにしてもう少しだらだら書き並べます戦車戦のこのへんが面白いと思うポイント。


砲塔の存在がステキ。

 舞台設定がファンタジーだろうと和風だろうとついつい戦車を出してしまう某STGメーカーの偉い人いわく
「戦車は、進行方向と関係なく弾を撃てるから素晴らしい」とコメントしてたりするそうですが、さすがの慧眼。
 それを可能にするのが全周砲塔という戦車史最大の発明。

 人が牽引するには無理のある大砲を、鋼の車両でもって高速で運び、そして360度好きな方向へ砲撃できる。
 そいつぁ便利で当然だ。例えばこんな風に、逃げながらだって砲撃できます。

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 まあ当たらないんだけどさ。



 そんでこの砲塔が、実用面だけでなく、『戦車がどの方向にぶっ放したがってるか敵側からもよくわかる』というビジュアルインパクトにも繋がるわけですよ。

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 そして砲塔の旋回速度そのものも戦車としての性能に数えられます。旋回速度が速ければそれだけ好きな方角に撃ちやすくなるので当然ではありますが、逆に言えば「別の方向へ撃つのに時間がかかる」という戦車の欠点にもなるわけですね。
 砲塔の旋回を助ける為に車体そのものも旋回させたりもするわけだけど、この動きの細かさがほんとカワイイ……。
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 そういや、ガルパンには砲塔のない突撃砲とか駆逐戦車とかに分類される車両も登場しておりますが、こちらはこちらで利点も欠点もあるのだけどそれはそれとして。


一発撃つと次の砲撃に時間が……。

 また例によって車両による話だけど。そもそも砲弾の大きさ(重量)からして違うわけだし。

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 各装填手と各砲弾。たいへん素晴らしい設定画。



 とはいえ、二次大戦中の戦車砲は(よほどの例外がない限り)手動による装填。つまり人力なのでそう気楽にほいほい連射できるもんじゃありません。
 最大クラスで50kgの重量物をどっこいしょと持ち上げて孔にぶち込むという行為を対戦中に何十回もやんなきゃならない。しかも戦車戦は一撃必殺。わずか数秒の差が決着に繋がることもおそらくは珍しくなく、勝敗は装填手がどれだけ根性をみせられるか次第という場面もまたあるのでしょう。
 そして、装填手が根性で込めた弾を、射撃手が気合いを込めて一撃必中を期す。その緊迫感。

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 このシーンなんかは桃ちゃんのポンコツっぷりが目立ちがちだけど、聖グロリアーナも、全員が無用な射撃をしてしまい(ついでに砲塔も動かして)再装填の時間だけあんこうさんチームに逃げ出す隙を与えてしまう。という形のミスを犯しているわけだ。



 車両次第な話をもう少し進めると。弾薬の置き場所というのは戦車を設計するうえで各国の頭を悩ませる要点だったみたい。
 うかつな場所に置いたら爆発炎上の火種になるし、かといって奥まった場所に置いたら装填に手間取ってしまう。そのあたりも装填速度に大きな影響を与えていたそうで、こと装填速度に限ってはどこまでもローテクなお話。
 操縦や砲撃は戦車そのものの性能によるところが大きいけれど、装填手だけはどうあっても本人の体力勝負なあたり、女子戦車道という武道のなかでも相当な肉体労働担当な役割だと察せられます。

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 地道な再装填訓練。ガルパンのなかでもトップクラスに好きなワンシーンなのだわ。


 

性能差ひでえ。

 ガルパンは「二次大戦終戦までの戦車なら参加可能」というレギュレーションによりバラエティ豊かに戦車が登場します。
 それ故に生じる覆しがたい性能差……と思えるところだけど、現実の二次大戦でもそーいうことはままあったらしい。

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 フラッグ車と遭遇しても逃げの一手しか打てない八九式の悲哀。


 具体的には砲火力と装甲厚による撃破不可能な状況てのが散見されたみたい。
 二次大戦の緒戦ではドイツ戦車の火力ではイギリス戦車を破壊することができず、航空機を撃ち落とす為の高射砲を水平発射でブチかましてむりやり貫徹して「高射砲を戦車にぶっ放すの反則じゃね」「戦車砲の通じない戦車持ってくる方が反則じゃね」て皮肉をいいあっただとか。
 走攻守全てを兼ね備えたソ連の傑作戦車T-34に直面し、衝撃ありあまった結果バケモノじみた対戦車戦車の製造に手を染めてしまうドイツ軍だとか。
 その狂奔により産まれたティーガーは登場当初、連合軍の持つほとんどの装甲を真正面から貫徹し、連合軍の持つほとんどの砲に対し無敵を誇っただとか。

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 このへんのお話は二次大戦初期から終戦直後までずっと続くので、現実の戦場でさえ「おれが乗ってる戦車じゃあの敵車輌の撃破とか正直ムリ」て状況は実際散見されたんじゃなかろうか。
 その所以は、戦車そのものが二次大戦下でもすごい勢いで進化してったが故の話でもありますが、その一方で、無敵のティーガーに対して「アレに対抗できる戦車を設計・製造するよりかは多少不利でも(=前線の兵隊に犠牲を強いてでも)今の戦車を改良してった方が生産性も維持できるし最終的には有利になるよな」という合理的判断によって根本的な対策が為されなかったからでもあるとか。
 つくづく現実にはロマンが足りないけども、それでも勝つために腕と戦術を振り絞らなければならない泥臭さもまた戦車戦の醍醐味があるのでしょう。


でっかい。(相対的に)はやい。

 速いつっても当時の戦車で50km後半の速度をだせたら世界最速クラスだったりとか、そもそも不整地を走るのが戦車なので、求められるのは速度よりも重量当たりに対する馬力だとか色々とめんどくさい点はありますが。
 にわか知識でみるとガルパンの戦車戦でいちばんフィクションなのが戦車の速度なのかなとか思う。
 軽戦車は軽量だからそんだけ速度を出しやすい……と思われがちだけど、実際はエンジンの馬力により、ついでに重たい戦車ほど馬力が必要なんで。最高速度にしても不整地とかを踏破するにしても馬力のある戦車のが軽量な戦車よりも速いことなんざザラだとかどうとか。

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 史実では10kmくらいしか出せなかったらしい八九式だと思うと相当ファンタジックな光景。
 とはいえ戦車道では二次大戦中に培われた技術までの改造なら認められるそうな。


 そのへんはともかく。とはいえ。
 ドイツが電撃戦とかやらかす以前は戦争の基本移動手段は徒歩。列車で戦場最寄りの駅までみんなで移動してそっからはカチ。
 だったのが、戦車と航空機によって人でも馬でもだし得ない速度でガンガン戦線を押し広げたドイツの電撃戦は誰もが体験したことのなかった速度での戦争だったわけで、それの担い手となる戦車はそういう意味ではとんでもない速度だったといえる。

 それでなくとも何十トンもの重量を持つ鉄の塊がズギャーッと走ってズガーッと急制動するわけです。その迫力。
 しかもそいつは崖を乗り越え、草木をなぎ倒し、家屋を突き抜けて突進してくるわけです。ああ、なんてかわいい。

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 おうちを突き破っての突進は戦車にとってのたしなみみたいなもんです。



・俯角・仰角という概念。
 これもTVシリーズではあまり目立たなかった欠点や長所だけど、劇場版では折々に出てくる概念でした。
 砲身を動かせる角度のことです。横にではなく、上下に。

 戦車はでこぼこな不整地を走ることが前提で設計された兵器だから、それにあわせてたいていの車輌は、砲口を多少上向けて、或いは下に向けて砲撃できるよう機構が組み込まれています。
 でもやはり限界はある。あんまり下向いたらば旋回するときに車体に引っかかっちゃうし、だから急な斜面に車体を乗っけると水平方向に攻撃できなくなったり、或いは、高低差の強い位置に対しては攻撃不可だったりします。

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 めいっぱいでこんな感じ。


 この仰角や俯角を大きくとれる車種だと、稜線や障害物を利用して一方的に攻撃できたり、或いは露出を厚い装甲面だけに抑えつつ砲撃できたりもする。
 戦車にも器用・不器用なコがそれぞれ存在するということだね。

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 画像はWorld of Tanks Wiki*より拝借。



・その他にも……。
 戦車はあくまでも兵器なのでただ強けりゃいいってもんでもなく、戦車そのものの性能と、それを大量配備できるだけの生産性との両立が求められたりとか、意外なくらい対人に弱くて、二次大戦中にも携行型の対戦車砲が登場してたり、かのヴィットマンも『対戦車砲の一輛撃破は、戦車二輛の撃破に相当する価値がある』ていうくらい、茂みに隠れた戦車砲が怖かったりとか、諸々あるのだけどもそろそろ戦車戦や戦車道のお話から逸脱してくるので控えておきましょう。


 さてたぶん次回はガールズ&パンツァーに出てくる戦車ごとのかわいいポイントについてだらだら語る予定。