デレマスにはまって8年程経過した今になって初めてライブ(大阪公演Day2)に参加したんだよ日記。

 読んでタイトルの如く、たいへんドライブ感に溢れる日記です。
 初物に対してそわそわするおっさんの心理を順になぞるにせよ、飛ばしてライブの模様を確認するにせよ、心してどうぞ。


色々準備。

 もしくは能書や出発前の準備。
 あるいは「ご用意できませんでした」を一度も経験してないのはアカンのちゃうかと思ったみたいな話。


・0から1へ移行するのには莫大なエネルギーが必要らしい。
 何の話かというと、今回の大阪公演が私にとって初めてのシンデレラガールズのライブへの参戦であって、ペンライトを振り回す類いのコンサートへの初参加だったて事で。七年だか八年だかジャンルに所属しながらなんで今さら「初めて」なことを経験するに至ったかその理由から書いておく。 


・私にとっての「オタク」て定義は、生活よりも好きなモノを優先してしまう人々のことである。
 で。私はオタクを自負しているので好きなモノには正直かつ誠実でありたいと思っている。
 で。あくまで私個人の話なんだけど。デレのライブ終了の度に、TLを賑わせるレポートやセットリストに「羨ましい」「なんでおれはその場にいないんだろう」と感じた感想をそのままいちいちついったにこぼすのは誠実なことなんだろうか。
 自己欺瞞じゃないのかしら。
 何が。
 何がというと。こう。
「羨ましがるんならせめて一般抽選くらい申し込んでおけば?」と思うんよね。

 トラプリのナマトラパル。森久保が小梅ちゃんの代わりに叫んだらしい「へいきちゃんとみえるからー!」、或いは演者さん同士のふれあい、現場で初披露された楽曲、当日発表のサプライズ。等々。
 羨ましいと感じた数はそのまま後悔の数である。
 なんで私はその場にいなかったのか。せめてLVとか手段は色々あったろうに。
 浅薄な後悔である。なぜなら私はそのライブへの参加申し込みをしてないからである。
 羨ましいと思う対象へ、面白いと思うモノへしっかりコストを支払う。
 それこそが好きな対象への敬意なのでは? オタクとしての矜持なのでは?
 それをせずに羨ましいアピールって何に対するアピールだ?
 せめて「ご用意できせんでした」を体験しとくべきなのでは?
 それでもって初めて羨ましがれる立場になれるのでは?

 ということで大阪公演の両日に申し込んだら、二日目のいわゆる千秋楽をご用意頂きました。ワオ。


・まあ好きなモノへの敬意とかそういうお話とは別に、今の今まで「やったことのないことはやってみれ」精神で生きてきたのに未だペンライトを振るタイプのライブを「なんかこう……わかんないし、空気感とか……」みたいに尻込みしたまんまなのもそれはそれでどうなんとかあったんだけども。いやおっちゃんもな、若い頃はな、一端の音楽通気取ってハコモノのライブには茂く足を運んでたんやけどな……。


・まとめりゃ自意識の肥大してる人間は何かとめんどくさいよなみたいな話。


・参加が決まったからには準備をせねばなるまい。

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準備の残骸


 どこからが準備なのかわからんところがあるけど、最初にやったのは同行者の確保。二枚ご用意頂いたので。
 最初は身内に声をかけたけども諸々の事情で難しいと断られ、結果的にはデレステ稼働からまもなく「音ゲーだから」という理由だけで遊んで嵐のように全曲フルコンして嵐のように去ってったけども「なんか推しのイベントがあるらしいね」と数年越しに戻ってきた直後に総選挙9位を射止めたナターリア担当の音ゲー星人@たぶん今がいちばんデレステの楽しい時期な知人に渡りが付いた。
 氏は去年あたりから積極的にライブ参加しており、先導役としてもきっと頼もしかろう。

 次にやった準備は、ペンライトの購入。
 アイマス関連のライブはそのへんのレギュレーションがちょっと厳しいらしいよとか聞いてたけれども、ちょっと検索したらむしろその厳しいレギュレーションに当て込んだと噂される半ば専用商品的なペンライトが見付かった。MIX Panla PRO。ここでいうPROとはプロデューサーのプロだと噂は語る。まあ噂だけど。資本主義経済の輪転をみた思いである。
 そのついでに、ペンライトとサイリウムの違いを知る。サイリウムてのは触媒と薬剤の封入された……云々。おまけで「サイリウム」は社号であって商標名や名詞でもないらしく、ついでに倒産済みだとか。キャタピラと無限軌道の違いみたいな話は色んなところに転がっているのだな。

 到着次第すこしいじってみれば、LEDを活かした色彩切り替え。メモリー機能。誤動作防止機能に、ムダななく安全設計の電池ケース部などなど。完成度の高さに感心する。実地試験を経て洗練された機能なのであろう。たのもしい。男子は棒状のモノを握るとそれだけで心高ぶるところがある。


 あと動画でも予習してみた。これ名作動画だと思う。
www.nicovideo.jp



 その次にやった準備は、予習用のプレイリスト制作。
 まあ予習ったって日頃から音ゲーでぺしぺし叩きつつ永久記憶に結びつけてはいるけども……でもまあイベントも適度にサボりがちだけれども。最新最近の曲ともなると自信がないのも事実だけども。
 まあ特に準備せず現場参戦してサプライズに身を任せるって方法もあるけどさ。なにせ初めてのことなんだから準備まで含めて楽しみたいじゃないですか。
 要するに形から入るタイプのオタなのよね。

 予習用セットリスト制作てのは要するに、京セラドームがどんな楽曲で我らを迎え撃つべく陣を敷いているかの予想てことである。
 なんか妙な喩えしてるぞこのひと。
 方法としては、色々考えられたけども参加される演者全員の名前を「ふじわらはじめ(https://fujiwarahaji.me/)」さんの楽曲検索にぶっこんでリストアップ。
 たいへんありがたいデータベースで。このご恩は総選挙の投票券で報いたいと思います。

 そこからひとまず、参加演者さんの関連楽曲を全部抜き出して……とかいう作業をしてたら4時間経っても終わらず……ああ。そりゃそうだ。演者は32人いて、デレマス全員の声優さんは80人ちょいだ。そっから五人ユニットの参加曲とか選んでいったらもうぶっちゃけ全曲リストに入るじゃねえか……。
 自分がバカであることを再確認するのは何度目であってもさびしい。

 四時間のムダの後に、クサい感じの曲のみのリストアップに切り替える。
 つまり総当たり式からガチの予想に切り替えるわけだけども。とはいえテーマに大きく「Rock」と掲げているので絞りやすいはず。先行した7thライブでもだいぶコンセプチュアルなセトリだったしね。で。それら幕張・名古屋の公演を参照して傾向をみるに……ソロ曲控えめ、重複曲はかなりの例外……CDリリースの近い曲はクサいし、CD未リリースでもバベルあたりは……おいおいあすらんの双翼ってライブ未演奏かよコイツはカタいな……ユニットで揃うのはTPとPCSと……ん? カバー曲は除外していいよなと思ってたけども最近の曲はCDに封入されてる……特に西川貴教曲はほぼCDカットされてるうえに演者が全員大阪参加……今年はコラボイヤーとか言ってたしなー……。

 楽しい。
 最終的にはああこれ生演奏で聴きたいああこの独唱ドームで聴きてえああこのユニット曲はどっちかといえばこっちが聴きたい等ただの欲望にまみれただけのリストがアップされていく。


 その次にやったのは、名刺の準備である。
 デレに限らず、アイマスのライブの古来から伝わる風習であるらしい名刺交換。
 少しばかり憧れがある。
 アイドルマスターというジャンルがその他のジャンルと一線画してるところはこういう参加性だよなとか思う。ファンではなく、プロデューサーであり、推しではなく、担当なのだ。


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こういうの。


 ということで少しばかり頑張ってドットなど書き下ろすつもりだったけども直前にリリースされた「グランブルーファンタジーヴァーサス」が思いのほか楽しくて……正直、どこか「いうてアークゲーだしなあ(アークシステムワークスが制作する格闘ゲームはいまいち趣味にあわないことが多いんだよなあくらいの意味)」とか思ってたんだけど、思ってた以上に、初心者もガチで囲い込むでェという圧がシステム面から感じられる調整でさ。
 シャルロッテことぷにあなに注ぎ込んでしまった。余暇を。
 結果としては名刺を諦めるかコミケ用のサークルカットを流用するかの二択を迫られて後者を選択。
 大急ぎででっちあげて、夜を通してプリンターを稼働させて。
 睡眠不足で始発の大阪行きに乗り込んで。
 一番大事な準備であるところの体調を整えるてのをやり損ねた。



当日日記。

 お金の節約のため鈍行列車である。
 乗り換え二回の片道三時間ほど? 眠るつもりが眠れなくていいやもう電車の中で眠ればいいやと電車に乗るも結局眠れないとかもう何度繰り返したんだろういい加減学習した方がいいと思うと後悔しながらでもJRは貨物扱いもせずおれを運んでくれる。
 そんで。ぼんやりと感じつつ、寝不足で自制を欠いた脳みそでほんとに独り言として漏らしたかも知れない事柄として。
「……実感わかねえなー」
 てのがあった。

 これからね。
 ライブにいくんだよ。
 五〇〇〇〇人が収容される大阪のドームでね。
 小梅ちゃんとか、涼さんとか、たくさんのアイドルのお歌を聴きに行くんだよ。

 実感わかねえな。
 まあそれもそうかも知らん。なんせ初体験な出来事だし。
 基本的にわたくしは想像力に欠如した人間なので、初めての体験にはあまり想像が及ばない。期待に胸を膨らませようにも何に期待すべきかがいまいちわからない。
 私は何を見に京セラドームまで行くんだろ。
 さりとて不安があるでもない。それはもうきっと楽しいことが起こるに違いない。間違いなく面白いものがみられるに違いない。だから不安はとくにない。
 数字で表せば10を満杯として期待2に不安ゼロみたいな。
 実感わかないな。でもまあ。
 楽しいといいね。面白いといいね。何かをみられればいいね。


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雨模様


・大阪。
 同行者さんと待ち合わせついでにアイマスPフェスタ(https://imaspfesta.net/)に参加してみようと話し合っていた。
 アイマスPフェスタてのは有志が「ウチのアイドルをよろしくおねがいします!」とフライヤーを配るんでよかったらおいでくださいという合同企画だそうな。
 名刺交換のくだりでも言ったけど、こういう参加性こそアイマスアイマスたり得ている由縁だよな。せっかくの機会と表現するに相応しかろう。と。
 待ち合わせ場所に選んだんだけども地下改札降りて直ぐに相当な行列が確認されてて。ついでに開場30分前倒しで整理券配布という盛況ぶり。
 ちょっと迷うとこだけども。
 整理券は30分刻み。会場は全員入れ替え制。並んだとしても小一時間はかかるまいか。
 ライブの会場は15時からだし、余裕もいいとこだろう。
 よし並ぶか。

 結論から言えば並んで大正解だった。
 感嘆すべきは列整理のオペレーションだろう。
 地下鉄入口と共用の、4人並べば一杯になりそげな通路は二度三度四度と曲がりくねり、階段を経由した先は最大で10人程度しか乗れないエレベーターが三つ並んでいる。恐るべきことに同ビル屋上では別イベント(結婚披露宴!)併設であるらしく、その客と混同される。
 正直、卒倒しそうな悪条件だと思う。
 けども列形成も列整理も見事なお手前でスムーズに進行した。これは並ぶプロデューサー諸氏の行儀が良かったのももちろんあるだろうけど。
 等とオペレーションに感心した後に訪れたのは怒濤のお渡し会である。
 会場は入場から一方通行。引き返し禁止の完全入れ替え制。
 だから流れ作業的に順々に販促物をもらってはいお疲れ様でしたー程度のことなのかなと思ってたのだけど。内容をいえば実際その通りで。ただし熱量が段違いだった。
 さほど大きくはない会議室を壁伝いぐるりとまわる。
 それだけの合間に巻き起こった「よろしくおねがいします!」「よろしくおねがいしまーす!」「ウチの担当をおねがいします!」「よろしくおねがいします!」の旋風。
 差し出される各々の工夫を凝らした、フライヤー、ショッパー、ポケットティッシュ、ミネラルウォーター、あめ玉、小冊子、あるいは昨日の同イベントで既に頒布終了したので気持ちだけ等……頒布物ひたすら受け取るだけのひとまわりなのに完全に翻弄された。
 なんというか、あてられた。
 正味、10分もかかんなかったんじゃないか。
 ほんとにぐるりとまわって頒布物をもらうだけだったので。
 だけどもとにかく、なんかもう頒布する側もテンションがちょっとおかしくなってなんか面白くなってたんじゃないのかアレ。
 とにかくとにかく翻弄されるひとときで、もう、わはは、わははははと笑うしかない状況で、ひたすらニコニコさせられた。
 いやちょっと、いい体験だったわ。


・それはそれとして雨である。
 大阪は難波にはペンライト専門店があるらしい。店名は『でらなんなん』
 観光気分でそちらに寄れば、雑居ビルの隙間を通り抜けていく感じの入り口に、傘を差した人々のそれなりの行列。そんな境遇でも率先して「じゃあ並びますか!」と言ってくれる同行者さんに感謝したい。
 雑居ビルのワンフロアの長辺の9分目のところに縦に線をひいて、大きな方を倉庫、残りを通路兼店舗にした構えで、壁面片方にペンライトを揃えて反対側にはアイドルのいわゆる生写真が並ぶ。ペンライト専門店とはいえ畑の違いを感じるところだけど、店内にはデレマスの曲が流れ、しかもたぶん今日の演者でちゃんと揃えているよう感じられた。入り口にはプロデューサーの名刺交換用のボードも掲げられ、しっかり盛り上げに参加してくれるよう意思を感じた。

 時間にはまだ少々余裕がある感じの昼前。昼食の摂取は不可避。同行者さん曰く、京セラドーム付近にいいカレー屋があるんだけど並ぶかも知れないしそうとなれば売り切れもあり得るラインで、でもなんとなくカレーという気分だし、ああそういえばそこそこ歩くことにはなるけど進路方向に北海道発祥の有名スープカレー店であるとこのマジックスパイスがあるんでそちらにいきますかと提案を頂き、これを了解。
 ご賢察通り、案内の10割を彼に依存している。感謝したい。
 薬膳、薬膳と呟きつつ相当な辛さのスープカレーをすすりつつ、『わかってほしいんだけどよォ……表現ってのの根本はなあ……自己救済でなあ……つまりアレだよ。十人一辺通りの救済じゃダメなわけよ……個人個人にあわせた、百万人の為ではない、ただ一人にだけ刺さるような……その点において小梅ちゃんはな? 生と死とのあわいにたゆたい、自ら闇を抱えたまま明るいところに立つべく歩む『暗くても、大丈夫なんだよって、みんなに、伝えたいから』と決意した小梅ちゃんにおける救済ってのはな……? こう……な? わかって欲しいんだけどよォ……』等延々クダを撒く。
 同行者さんには感謝しかない。


・そのまま歩いて京セラドームにまで向かいまして。

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向こう岸



 商都らしい運河跡を思わせるよな河川の向こう岸に全天候型の屋根がみえた。
 ははあ。アレがバッファローズの本丸ですか(※知ったかぶり)
 球場に繁く脚を運ぶ類いの趣味を持ち合わせてないのであんまわかんないとこだけど、こういう建築物の密集地にいきなりポンとあるのは珍しい類いなのではあるまいか。

 ドームってでっかいなービッグサイトとどっちがでかいー? だの
 なんか思ってたよりマスクしてるひと少ないねーだの、
 同人誌即売会で不思議と目にするレプリカユニフォームもこういう場だと相応しいねだとか、そういえば羽衣小町モデルの傘とか販売されてなかったっけだのと思いついたまんまの適当な感想をだだ漏らしつつ。
 余裕があれば球場周りを一回りしてみたいところだけど、入場時刻はもう過ぎているし雨傘で人口密度も数割増しだしで到着そのままの脚で入場する。


・コンクリ打ちっぱなしにカーブを描く通路。今日はあんま実入りのなさげなフードコート。客席入り口に控えた案内嬢さんに席位置を案内してもらえば、ホームラン性の打球がよく飛んできそげなセンターやや右より座席。ステージに目を向けた視界のど真ん中を寸断するポールがなんとも凄惨ではあるが、その根元の機材席を丸々覗ける面白い位置取りではある。
 座席の傾斜はなかなか急で危なっかしさも感じるけれど、それだけグラウンドに近いとも取れるし前の席の後頭部に視界を遮られずに済む。ただやっぱこの足場で立ちっぱで足踏みとかペンライトぶんぶんするのって怖くないスかそうでもないスか。
 マウンドの上空に霧状の空気がもやってる。まあ雨だし人いきれもあるだろうなかに透ける客席はまだまばら。しかし既にそこかしこでウルトラオレンジの火の手があがっている。
 空気感。
 さて。未だに。
 実感が湧かない。どっかふわふわしている。
 私は何を観に来たんだろうか。
 けれども、なんかこう。
 そこかしこに揺れるペンライトの明かりをみると妙な嬉しさがこみ上げてくるよなと気付けば。

 アイドルとはファンが存在するからこそ成り立つ面がある。
 それはアイドルマスターというコンテンツでも変わりは無く……まあデレマスというジャンル内ではときたまその存在はマスクされたりもするけども。ともかく。
 その存在はあそこで揺れる、もしくはこの手元にあるペンライトという存在に象徴される。
 そうだね。
 なんかこう。まだ言葉には出来ないけれどもコレを観に私はここにきたのかも知れん。あるいは。
 等と思いながら予行演習と称して人生で初のUOを折る。


アイマスブランドの各種宣伝動画の合間合間にデレマス曲が流れる。
 それを肴に同行者さんとこの曲が聴きたい、あの曲が聴きたい、この曲の譜面が天才なんですよね、このユニット曲はあるだろうかこの曲をやってくれなければおれはhatenaの匿名ダイアリーにお気持ち表明をするつもりだなとと話しつつ。
 その場内放送にさえコールが入り、ペンライトが揺れ、あるいはUOが焚かれ始める。
 一体感という意味では既に相当なものだ。スゲーな、場を暖める為の前説とか完全に不要だわ。プロデューサーの参加感さすがだわと。
 事実に基づいて記憶を追えば、場内放送が終わって、各種京産の紹介とそれをP一同で読み上げる儀式(儀式)にちひろさんの諸注意があったはずなんだけど。
 場内放送の「イリュージョニスタ!」の時点でもはや遠慮無く燃えて染まるUOの発色。五〇〇〇〇人近くがそれぞれ一本百円だからこの瞬間でも五百万円近い空間的価値が……とか野暮な思考は置いといて。それを初体験した人間にとっては最高潮に近く感じる声量のコールが溢れて、記憶にある中だともうそこから直に幕があがりライブがスタートした気がする。



本番。


 流れる「ガールズインザフロンティア」のイントロ。ああおれにとってこのイントロはこの瞬間に、この瞬間を意味する形に、もうずっと元には戻らない変質をしたのだと直感する。
「Unlock Starbeat」に、テーマ曲を頭やトリでなくこの位置に持ってくるのかと感心する。
 演じてくれるに違いない。そうと確信してはいたものの心構えのまだ出来上がってない冒頭のこのタイミングで歌われる「Lunatic Show」に理性が追いつかず振り回したペンライトに同行者さんから(ペンラは胸の位置で振ろうね)と手振りで諫めて貰う(感謝しかない)。小梅ちゃんと輝子の中の人達が肩を組んだのは幻だったろうか。ほんとにみたんだろうか。なんか「近い! 近い!!」とか絶叫してたような記憶もあるが。
「義勇忍侠花吹雪」の、ロックという言葉の持つかっこよさとは解き放たれた雰囲気でのびのびとかっこつける三人がかっこよくて、ああしかしこのギターソロもっとちゃんと聴かせろ歓声はいいからソロ終わってからにしてくんねえかなとかワガママをいいつつ歓声をあげたり。
 新曲! 新曲に違いないわ! とは思えどもMCまで川島さんと巴お嬢の曲だと気付けず惜しいことをしすぎた「Gaze and Gaze」と、逆にその次の「生存本能ヴァルキュリア」はちとちよとが歌っていることに気が付いて涙腺に亀裂を感じつつも、ああ、それでもダメ絶対音感不足と演者さんのご尊顔をあまり覚えてないのとで歌い分けを追い切れず誰がどの歌詞を歌い上げてるかああいちいちメモしたいという衝動に駆られつつ「Trust me」の火を付けろ発火て歌詞と同時に壇上へ吹き上がる炎と同時に焚かれるUOに、ロックとパンクの境目ってどこだろうなとか思ったり。


 正直なところを言えば曲についての細かい感想は覚えてない。
 いっぱいいっぱいだったからである。記憶を大雑把にザッピングすると観客席の映像ばかりで、せっかくモニターに映されたステージの模様もほとんど覚えてない。
 周囲から浮きすぎずかつ自分にとって心地よいペンライトの振り方だとか気にしてた気がする。しょうもない。経験値不足。
 とはいえ、ペンライト文化っていいもんだなとこの時点で相当実感してた気がする。
 曲やキャラクターのテーマカラーと揃えて演者にエールを送り、リズムに合わせて振り回し曲に乗って演者の声を受ける。
 一方通行だけども双方向でもある。
 ここにいるぞ。応援してるぞ。聞こえてるぞという五〇〇〇〇人分のかたまり。
 そうだな。これを観に来たんじゃないかという気がする。
 私個人の体験でいえば、ヴァルキュリアが流れたときは属性色よりも「ここは白だ。絶対に。白だ」と確信しMIX Penla PROをカチカチ言わせたり。同行者さんからメモリー機能使えば信号機は即出せますよとご教示頂いたけども、この、なんか、曲や演者ごとに合いそうな色を探す行為がちょっと楽しくてさ。


 それでも。何を観に来たかはふわふわしたままではあったけど、それでも「何か」はみたのだ。
 それはもうおよそ「何か」としか表現出来ない類いのもののようにさえ感じる。
 
 それの下地は新田美波こと洲崎綾の歌う「Voyage」で整えられていたようにも感じる。前に前にと主張するロックナンバーが続いた後の、とにかくしっとりとたゆたう、このやたら優しげなおねえさんは誰だろう……いや知ってるけど……的気分に浸れる空間。ドームを埋める観客の前で、ソロで、しかもアコースティックで歌うとかいうガチ歌唱力の求められるシーンに純度の高い敬服の念を覚える。
 当人のイメージカラーも、属性色も、海をモチーフとした歌も、ゆったりとしたアレンジも全て青いペンライトを揺らすのに相応しい曲だった。
 そこから。
 ソロアレンジだからこそ浸透し、深まる曲間の沈黙に、イントロの流れる前から、ステージに近い距離から順にペンライトが赤く染まっていく。その理由は、彼女のトレードマークである赤いリボンがみえたからだと後に教えて貰えた。
 牧野由依の、佐久間まゆの「エヴリデイドリーム」だ。
 引き続き、ソロ曲を、ソロ歌唱で、生楽器によるソロアレンジで。しかもバラードアレンジが強く利いている。
 鍵盤の叩く正確な音に声で寄り添い、さらに一歩前へ、スローテンポに溜められるだけ溜めて。
 愛しい貴方。放さない。ずっと。愛してる。大好きだよ。それでいいの。何もしなくても。
 すごいな。
 この女性は、たぶん、五〇〇〇〇人を前にしながら、きっと、たった一人の為に歌っている。それでなければこの情感が、いっそ緊張感さえ漲るこの息苦しさが説明できるだろうか。
 無論その一人とはプロデューサーのことだ。佐久間まゆという個性を知っているからだろう、そう想像させられる。
 五〇〇〇〇人の揺らすペンライトはある程度は統率されているけれども、個人の自由に大きく委ねられる。
 それなのに。
 真っ赤な色ばかりで、きっと一つの赤色で染まっていたのはソロ曲だからというだけではないんじゃなかろうか。
 彼女の為に、とにかく赤い色を、同じ赤でも、いちばん赤い色を。皆が彼女の為にひたすらただ最も赤い色をと探した結果じゃないのか。
 たった一人の為へと込められた歌、一人の為へと一色に染められた空間。
 その世界観がメドレーとして延長される。
 マジか。
 続いた「マイスイートハネムーン」はポサノバアレンジだった。軽快といえば軽快な曲調にやっと呼吸が出来るような趣もあったけれど、歌詞の内容がそれどころではない。何せ一方的な懸想で歌われたエヴリデイドリームに比べて「ハネムーン」だ。もう、持って行かれる。連れて行かれる。
 言葉はもう必要ないわ。目隠しして夜を待つの。いつまでも。
 一人の為に歌われた歌で一色に染められた世界観。そんな甘さに誰が抵抗できるだろう。いや、赤いペンライトを振っている時点でもう、もはや。
 鍵を掛けて愛を閉じ込めましょう。二人描く夢は一つ。募る思いつかまえて。
 教えてハーフムーン。愛はどうして形を変えていくのでしょう。
 注がれる情感に、愛に、ただ酔わされるような。歌詞は情念と緊張感を増していく。
 これが未来。これが運命。逃げられない結びつき。ですよね?
 ほとんどモノローグのような歌唱が、その情感が極点に達した瞬間。歌がやんで、演奏がとまった。
「何か」を観たのはその瞬間だ。それはもう「何か」としか表現が出来ない類いの。
 曲の静止とともに、五〇〇〇〇人分のペンライトも静止した。
 誰も何も音をたてず、きっと、完全な静止が。
 溜めて、溜められている彼女の感情と、それを支えて導く演奏との沈黙の、その破れる瞬間を待ち受け止める為か。この歌の邪魔せず、一体でいたいという感情か。それともただ呑まれただけだったろうか。とにかく、本当に、ただそれだけの事実として、きっとまちがいなく、五〇〇〇〇人がペンライトを赤く灯したまま静止させた瞬間があった。
 あったんだよ。
 それを「何か」という以外に何と表現出来るだろう。
 とにかく、だから。みたんだよ。その瞬間、何かを。


 MCがはさまってなんというか命拾いしたような心地にもなってた。
 そんだけ世界観に呑まれていて、そこから半ば開放されたような反動でか、そういえば外、雨降ってるんだなとか思い出した。もしかするとあの沈黙の瞬間、ひとによっては雨音を聞いたかも知れない。それはさすがになかろうか。


 予習の際、オリジナルのメンバーが揃っている曲んなかでこれ聴きたいけど難しいかもな聴けたら嬉しいな曲として覚えていた「夏恋 -NATSU KOI-」がほんと嬉しかった。しかも、おーおおおーおおおーのコーラスをコールでやりてえなとか思ってたらそのまんまのことが起きてコレも嬉しい(バイブス記念日)。
 難しいかもなとか思ってた理由は冬なのに夏恋だからである。同じ理由で Spring Screaming も難しいかもなー Frost と二択ってのも有り得るしなあとか思ってたら後にそれ一日目でどっちもやりましたよと教えられてやっぱ両日か。両日参加なのかと歯噛む。
「Sun! High! Gold!」雪美! 雪美ちゃん!! ところでりあむ仕草完璧だなりあむ! そうねこういうのがいわゆるライブ向き楽曲ね! 嬉しいけどところでおれ同じ総選挙曲なら夢をのぞいたらも好きでさ! と言ったらそれ一日目でやりましたよとか言われて歯噛噛噛噛。
「Palette」は生演奏で聴けていちばん嬉しい歌だった。PCS楽曲でいちばん生演奏で聴きたい曲だよなと予習時から期待してたのでなんせチャールストンだからなチャールストン(雰囲気だけで言っている)。
「Twilight Sky」のHeartbeatバージョンはまさかの選曲で。MCで「実はCDにね……」と目をそらし気味に語ってたけど知ってるぞでれぱ音頭だろう。ラジオ曲はまあないよねーと予習から外しただけにいいサプライズだったけど、まさか、だりみく二人であの二色のペンライトで染められたトワスカがみれるとか、同じ会場のどっかにみく担当の知人がいるはずなんだけど彼の心臓は保っただろうかと案じつつ。
「双翼の独奏歌」はなんとライブ初披露ですよ。予習時にこれまでのライブで未演奏と知って驚いたけども、まあこれやってくれないと匿名ダイアリーにお気持ち表明するレベルだったけど。ステージの端っこと端っこで歌う様がいわゆる解釈一致で楽しかったのと、MCでの「言っていいですか! (青木志貴内田真礼の二人でいると)なんかあのへんの人達が楽屋でスゴく煽ってくるんですよ!」からの「今度は、二人でお揃いのアクセサリーとか……したいなって」「うんやろう」だとか。それを煽る高森奈津美青木瑠璃子もイヤリング揃えてたりとか。ルナショで肩組み合った二人とか。ちとちよ二人の涙とか、フォーリンシーサイドの二人の涙とか。さすが千秋楽ともなればみなさんテンションがおかしくなってませんかというか結婚しろ案件というか。
 
「アンデッド・ダンスロック」に感じたのはなんかこう、やすらぎとか表現できそげな感情だったのはなんだったんだろうね。安心感とも違う、すごいひたひたと満たされてく感じの充足。あるべきものがあるべきかたちであるべきところへおさまった、完全な円。こう、なんか、そんな感じの。
 言葉にすれば「ああおれはここに骨を埋めるんだ。大阪とか、京セラドームとか、なんかそういう形のあるところじゃなくて。ここに。アンデッドダンスロックという曲で示された、りょううめという関係性の接点に、接続部に、そこに、ここに、おれの骨を埋めるんだ……」みたいななんかそんな。
 聴く側もいい具合に暖まってたかギターソロ等の部分部分ちゃんと聴けてちょうよかった。

「毒茸伝説」「∀NSWER」と、前半部から後半部まで輝子というか松田颯水というかの七面六腑っぷりがスゴいしいちいちパフォーマンスも優れてて優れている。果てしなく今さら言うことでもあるめえが、輝子担当は輝子を誇るべきだと思うし松田颯水がなかのひとを担当してくれている事実に感謝すべきだと思う。そりゃあもう今さら言うことでもなかろうけど。
「Trinity Field」すごく正直に言えば Trancing Pulse のが聴きたかったけれどもしかし、しかしだ。福原綾香の難しい音域にも一切の躊躇いなく挙げられる声、 松井恵理子のとにかく一歩でも前へと張り上げられる声、渕上舞の差し色とでも表現したくなる鮮やかに存在を主張する声。もう刺される覚悟でクソ正直なことをいうとこの三人の単独ライブがほしい。


 ここですごくどうでもいい私個人の個人的なアレをいうと、ちょっとだけ死にそうになっていた。物理的に。なんでかというと水分補給を怠っていたからである。
 二月半ばとはいえ、降雨の湿度と、それにより閉じられた天井と、五〇〇〇〇人の熱量とでたぶん湿度がヤバくなってたんだと思う。汗がほんとに蒸発しない。
 体力面に自信のなくなったおっさんだからそれはまあ事前に飲み水は準備してたのだ。お茶と水をそれぞれ。それなのに、なんでだかわかんないんだけどそれが二本とも消えちゃってんのよねー……私の身の安全のみならず、こんな足場の不自由な場所でペットボトル転がして誰かが踏んづけでもしたらと怖い想像も涌くし、MCの合間合間にそれこそペンライトの明かりを頼りに足下だの荷物だのを散々探し尽くしたんだけど……。
 元より潤沢とはいえない体力、睡眠不足、水分不足。残りは何曲あるのだろう。生きて帰れるかしら……とかいうのはまあオタクにありがちな冗談だけども。今まで諸々体験した体力的限界に照らしてもまだ余力があるのは確かだけど。
 残りの曲はいつだって多ければ多いほどいい。とにかく人様に迷惑かけるようなこともしたくない。だけども今ポカリ飲むとスゲエ美味えんじゃないかな。


 あのピアノのイントロがきたのはそんなタイミングだった。
 察しのいい誰かさんの(……マジか)という呟きはきっと我知らず漏らしたものだろう。おれも多分まったく同じ事を口走ってたと思うし、あの静けさの中でのざわめきの9割くらいはその(マジか)という呟きだったんじゃないか。
 予習てのはしておくモンだ。予習リストを作ったときの思考で、カバー曲は……最近はCDにカップリングされてるし、ステに実装されてるのはアリ寄りかな……逆に言えばステ未実装な、jewelry曲はナシとして……。
 そんな間違いがあったからこその衝撃ではあったけど、しかしそれを犯してたから確信には至れず、MIX Penla をカチカチと鳴らし赤い色を探しながら、こんなときも働く自意識が、いやここまで驚いといてハイやっぱ違いましたじゃ周囲から浮くし恥ずかしいし……と泳いでいた眼が、既に、とっくに、次に来るその曲を確信して、両手に持ったペンライトを交差させて高く掲げているPをみつける。
 真っ赤な「X」の字だ。
 あー。マジかー。
 もう余人にはきっとわからない、万感の思いとしか表現出来なさそげな星輝子の、松田颯水の絶叫が響く。
「紅だァーーーーーーーーーーーー!!」

 あーもーいいやもう死んでも。
 もったいない話だけどももう記憶がない。ほんとにない。とにかく今日イチで腕を、ペンライトを振り回した感触しかないし、ありったけを折り尽くされただろうウルトラオレンジの焼き付くような灯りと、あとなんか錯覚かもしれんけど色んな場所で色んなものが壊れる音がちょいちょい聞こえた気とかがするけどもうしょうがねえよもう。ほんとおぼえてない。

 ラストに最大のピークを見事に持ってこられた大トリに「純情Midnight伝説」を用意するセトリがほんとに心憎い。職人技の一種だと思う。ロックってやっぱ基本的にトガってて攻撃的な曲で、それが放出され尽くした最後にこのひたすら楽しいロカビリー。笑いながら泣ける。終わってほしくないとかいう未練を吹き払ってくれる。


 演者のカーテンコール。
 星希成奏の夢見りあむ仕草ほんま完璧でほんとに完璧だと思う。なまじ地頭がいいから帰って考えすぎて一周して考えなしな行動になってるあたりとか、素晴らしいディレクションであったなと。
 東山奈央の「やっと大阪に帰ってこれた」とか「次にお会いするときは同い年かしら?」とかの川島さんを大事にしてくれっぷりとかさ。
 松田颯水の「シンデレラガールズ達はたくさんいて、とがってるコもたくさんいて、Pの皆が『とがっててもいいんだよ』って言ってくれたから今日、紅を歌えました」て言葉はほんとおれがデレマスに求めていることそのものに言及してくれたし。
 福原綾香の「沈黙さえ音楽になるんだなって」て言及には今思い出しても涙が出そうになる。
 千菅春香が……正確なニュアンスは思い出せないけど「カッコよくてかわいくて、とにかく、前に進もうという意思がロックなのかな」みたいな……佐倉薫の涙とそれを励ますように揺れるペンライトとかだな……ああほんと。演者がそれぞれ全員の挨拶があったはずなのにほとんど覚えてない己の記憶力とキャパの低さが嘆かわしいところだけど。


 個別の挨拶だけじゃなくて、演者さんの各パートの歌い分けや知識が足りなくて言及の出来ない演奏まで含めて書き残せない箇所や取りこぼしはとんでもない量があるだろうし、たぶんそれは円盤をみても取り返せないものであるようにも思う。
 ライブってのは体験のモノであって、体験のモノとはそれが強烈であればあるほど感想はどこか均質になり、感想を述べようとしてももはや起きた出来事をそのまま言うしかなくなるんじゃなかろうか。
 それはどこかもったいない事のようにも感じるけれど、私があの京セラドームでみた「何か」は、あの瞬間にしか存在せず、あの瞬間その場に居合わせた人々だけが触れられたものだろうから、きっとそれはそれでやたら貴重なものなのじゃあるまいか。


終わって。

 アンコールで歌われる定番曲は、定番曲であるだけに聴き慣れている部分も多く、現実に帰らせてくれる作用もあるように思う。
 帰りたくないけどさ。
 順次退場のアナウンス。時間を確認すれば午後八時とかいう冗談にしか思えない針の位置(日付跨ぐ直前かなくらいの感覚だった)。見下ろせる機材席には、機材ブーススタッフに感謝を述べるP達。通路のコンクリートは一面結露していて、そこかしこに使用済みのケミカルライト捨て場であるとこのUO塚が散見された。
 雨の降る中を一駅歩いて新幹線の通る駅まで移動。もしも今回の公演に何か注文を付けるという恥を許して貰えるならば千菅春香のソロがなかったのが悔やまれるけれど……この気持ちは私の中で風化して朽ちるまで誰にも何にも明かさずおこう……とか思ってたけどついったのトレンドに「One Life」てあがってて思わず笑ったりとか、あーそーいえばLove∞Destinyもなかったなーだとか。同行者さんの見送りを兼ねてラーメンを啜りつつ、思えば一方的に話してばかりでなんかこうもう少し私は話を聞いてくれるひとの存在に感謝すべきよなとか熱した後特有のテンションの落ち込みを経験しながら安宿に移動する。


 ビジネス街と観光地と盛り場と住宅地との境目が薄い感じの独特な街をふらふら歩きつつ、もちろん頭では体験した出来事を反芻している。
 終わった。楽しかった。生き延びられた。生きてるよな。走馬灯にしては賑やかだったしな。


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一泊2200円くらいだっけ


 そこで少し面白い経験をした。自己観察というか。
 確か正常化バイアスとかいう名前の付いている作用じゃなかったか。
 日頃の癖で、起きた物事を文字にして整理すべく試みてるけれどもそれがなかなか追いつかないようで……初のデレステライブである。そりゃ整理はしときたいけど……ええと……せめて一言でまとめようとして出てきた言葉が。

「期待してた以上だった。けど、想像してた以上じゃなかった。気がする」で。

 何言ってんのコイツ。
 今をしてみればそう思う。しかしそろそろと隠しようも無く疲労を感じていた頭でそのときコイツはそんなことを確かに考えていたのである。
 宿にチェックインして。噂される新型コロナも怖くないわけでもないし(2月半ばはそんなテンションだった)と大衆浴場では汗だけを流して終えてカプセルホテルの妙に落ち着く狭くて近い天井を眺めながら思わず口を突いてでた。
「そんなわけあるかい」

 想像してた以上じゃなかったっつって。そんなわけあるかい。じゃあお前は一人の女性の歌声とそれを支えた演奏が五〇〇〇〇人のペンライトを静止させたあの瞬間を、エルドリッチロアテラーの歌声から感じたのが安らぎだったことを、たった二人で歌われたオウムアウアを、楽曲でもMCでもバイプレイヤーとして立ち働いていた村中知を、東山奈央と花井美春の目配せを、とにかく諸々を予測できていたとでもいうのか。
 そんなわけあるかい。

 思えばそれは、脳みそが情報を整理しきれず、飽和しちゃったもんだから「ああ知ってる知ってる」みたいな態度を取らせることで平静を取り戻そうとした働きだったのではあるまいか。
 それが証拠に、ついったにて有志が早速あげてくれたセトリを眺めながらライブの記憶を時系列順に思い出してなんとか情報の整理に目処が付いてきたらば今度は感情が追いつかなくなって、処理しきれない感情が涙腺から漏れてべそべそと泣いた。
「あったんだよ。みたんだよ。ほんとに。みたんだよおれは……何か、こう……何かを。ほんとなんだよ……何かとしかいえないけど、ほんとにみたんだよ……」とか誰に対してかわからん繰り言を漏らしつつ無性に泣けるままうつ伏せで寝た。
 ええとししたおっさんにあんま許されない夜の過ごし方な気もするが、事実なので仕方ないし、あれだけ華やかで楽しかったライブの日記がこんな終わり方なのもどうかとも思うが、まあ仕方ない。仕方ないんだよ。
 とにかく、何かをみたんだよ。何かを。



 翌日は何も予定がなかったので同じく大阪参加された知人さんを呼び止めライブの感想戦の後に「ボイス総選挙のことは家に持って帰ってからゆっくり考えようかなって……」と仰ってるのに呑気に個人的には彼女に声が欲しい最近はあの勢力がヤバい前総選挙のスコアではこの娘がキてると話してはやっと事の重大さに気付いた気分になって「なんていうか……まあ、みんなが幸せな結果になると……なれば、いいのに、ね……」とかちょっと救いがたいテンションになったりして解散した後にコミケ用ディスプレイとして偶然かばんに入れっぱなしだった小梅ちゃんと一緒に『都心圏内で巡れる! 大阪心霊スポットツアー!』をひとりで企画して無性に炭水化物と塩っ気を食いたいという欲望の赴くままにマクドのポテトのLサイズ3つをレンタル電動チャリの前かごに乗っけてひたすら自転車漕いで回って後に帰りました。

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真冬に逆戻りという気候に咥えて強風注意報ですってよ

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ようこそ新世界