ニュー・アイドルシネマ・パラダイス 『死霊館』

架空のラジオ番組の特別エピソードという体でやっております。


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スピンオフの多さもアメリカンホラーらしい?




梅「え、え……と、今週のお題は……『200分越えの映画で、最初に思いついたもの』
 ええ……? えっと……い、一回パスで……」

涼「一番好きなもの、じゃなくて、最初に思いついたモノってあたりに配慮を感じるね」
奏「まあ、そうかもね。一番好きなのは何かって訊かれたら、簡単には答えられないもの。
 それじゃあ私は……『愛のむきだし』かな」

涼「んー。そうだなあ。アタシは『ベン・ハー』で」
梅「えええ……? えっと……『グリーンマイル』って200分あった……かな?」


涼「ところで、ニューシネマパラダイスって誰か言わなくていいのか?」
奏「アレは特別完全版じゃなきゃ200分越えてなくなかった? まあ、私はそっちの方が好きなんだけど」
涼「おっと、それはともかく。そんなわけでニュー・アイドル・シネマ・パラダイスのお時間です、と。
 この番組は、松永涼と」

奏「速水奏と」
梅「白坂、小梅の」
涼「三人の映画好きアイドルが、好きな映画を、好き勝手に語るっていう番組なんで、リスナーも好きに聞いてくれれば嬉しいな。
 で、今月は小梅誕生日おめでとー!

梅「わーい」
涼「まあ28日なんでまだ先だけど。おめでとー記念として、今月は小梅特選のホラー映画特集でお送りしてるぜ」
奏「それで、第二週にあたる今夜のテーマは?」
梅「え、えっと、ジェームズ・ワン監督の死霊館、です」


youtu.be




奏「死霊館は2013年にアメリカで公開されたホラームービーね。『ソウ』で一躍有名を馳せたジェームズ・ワン監督が新たに手がけるシリーズの第一作。実在する超常現象研究家のウォーレン夫妻が、実体験ながらもあまりにも邪悪でありこれまで他言をしていなかったエピソードの映画化、と、かなり大きく振りかぶった感じの宣伝文句ね?」

涼「片田舎の一軒家を購入した一家。引っ越した直後から愛犬の突然死、妻に浮かび上がる謎の痣、娘は夢遊病を発症し、末妹は何もないところに話しかけ、時計の針は毎晩同じ時間に止まり……順々に異様な現象が起こり始める。と」


梅「あらすじ、で、聞いてみると……お話そのもの、は、割とよくある……感じ、かな?」
奏「そうね。ある意味では王道なんじゃないかな。悪魔憑きものという意味でもアメリカの古典になるのかしら」
梅「あ、うん。たぶん、そうだと思う……アメリカのホラーって、根っこに『エクソシスト』があるって……きいたことがある、ような……」
涼「大流行したんだっけ? なんか、宇宙人の目撃報告が『未知との遭遇』の流行後に激増したーみたいな話を思い出すね」
奏「それだけマスの力が強い国とも解釈できるし、アメリカという国にとって映画がどれだけ文化の中央にあるか……という話にも感じるかしら」
涼「まあでも、歴史的ーとか文化的ーとかにはあまり迂闊に触れたくないな。印象だけで語っちゃうと専門家サンに失礼かも知れないしさ」
奏「『専門家』と書いて『うるさい方々』と読むのかしら?」
涼「言ってない言ってない。読まなくていいから」
奏「ともかく、あらすじは古典的、という部分は覚えておきたいわね」


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エクソシスト』の最も有名なシーン(といって選ぶのに相応しいかどうか)



涼「それで、映画そのものの感想なんだけどさ」
奏「ええ」
梅「うん」
涼「一言でいうと」
奏「一言でいうと?」
涼「怖い
奏「そうね。怖い
梅「……えへへ」
涼「すっげー怖い
奏「本当に怖い
梅「……えへへへ」
涼「このやろー小梅ー! なんか嬉しそうだなー!」
梅「きゃー! でも、えへへ。ほ、ホラー映画の、感想が、『ちゃんと怖い』って、やっぱりいいよね。よね?」
奏「そうでしょうね。制作側にとっても何よりの褒め言葉だと思う」
涼「そういや、アタシは小梅に勧められた時にそのまんま一緒にみたんだけどさ。奏はこの収録の為に一人で観たんだろ?」
奏「まあ、そうね」
涼「……平気だったか?」
奏「……それは、まあ。映画はみんなで観る面白さもあるけど、本来は一人で観るものだって思ってるもの。映画館が素敵な空間である理由の一つはそれよ? 同じホールのなかで並んで座って一つのスクリーンをみつめてる。けれど、誰も言葉を交わさず、暗闇のなかに孤独でいる。一人一人がそれぞれの感想や感動を抱きながら。素敵なことだと思わない?」
涼「んー。んん。言いたいことはだいたい分かるけどさ」
奏「告白すると、休憩をはさみながらみたわ」
涼「……完走しきっただけでも偉いよ」
梅「えへへ」



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画像は『ニューシネマパラダイス』より。



涼「ま、怖い怖いばっかり言ってても話が進まないね。具体的に、どんな風に怖かったか、ってところから話していこうか」
梅「どんな風に……? え、ええと……」
涼「うーんそうだな。脚本が怖い、演出が怖い、カメラワークも怖い。話の糸口がちょっと見付からないね」
奏「そうね……話のきっかけになるかどうかはわからないけど。個人的な感想なら」
梅「どうぞどうぞ」
涼「なんか躊躇いがちじゃないか?」
奏「んん。個人的な感想というよりも、個人的な感傷だからかしら。公共の場で言うのはなんとなく恥ずかしいのよね」
涼「お、勿体ぶるね」
奏「こんなところで焦らしたりしないわよ。でも、まあ……この映画で気が付いたんだけど、私って、子供が危ない目にあう映画ってそれだけで苦手みたい」
涼「あー」
梅「あー」
奏「元々怖い映画だけど、なんだか余計に、ね。五人姉妹のお話ってわかったところからなんだか気が重かったわ」
涼「わかるわかる。ちっさい子が標的にされたりすると観ててツラいよなー」
梅「で、でも……小さいコ、と、ホラーの組み合わせ……割と、多い……よね……?」
涼「色々タイトルが思いつくな」

奏「そうなのよね。子供って、基本的に自分が愛されていると疑ってないから……というより、他者の害意というものにまだ気が付けてなくて、無頓着で無防備じゃない? だから無邪気で。だから好奇心に対しても正直で。行動そのものが危なっかしいところがあって……無垢っていえばいいのかな。それが理由で傷付くのをみるのも、それを予感するのも、なんだか余計に怖くって」

涼「うん。うん」
奏「でも、ホラーで子供の出番が多いっていうのは、割とみんなそんな風に感じてるってことなのかしら」
涼「うん……あー。アタシはアレだな。もうちょっと単純に『子供だとバケモノに反撃しづらいしなあ』くらいの視点」
梅「あ。シンプル」
奏「……シンプルね。でもそうね。ホラーの出演機会に多いのはそんなところなのかも」
梅「というか……えっと、奏さん、こ、子供自体、苦手だよ、ね?」

奏「…………

奏「あら? そう思う?」
梅「あ、その、ま、まちがってたら、ごめんなさい……えっと、一緒にお仕事するようになる前まではずっと、『小梅ちゃん』って……ちゃん付けで呼んでたけど、けど、たぶん意識して、『小梅』って、呼び捨てにしてくれてるのかな……って」
涼「よく観察してるなあ、小梅」
梅「あの、そうやって、私のことが苦手、でも、一緒にお仕事する仲間として? き、距離を近付けようとしてくれてるのかな、って、な、なんだか、嬉しいなって……思ってました」
奏「……鋭いわね。それとも私が未熟ってことかしら」
涼「それは照れてる? 焦ってる?」
奏「たぶん両方。まあ、そうね。ちょっとまって。この話は、もっと後でゆっくりしましょう?」
梅「うん。ゆっくり、ね」



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母と姉妹(スタッフロールがまたかっこいいのよ)



奏「ハイ。仕切り直しましょう。といってもどう仕切り直すべきかしら。好きなシーンからあげていく?」
梅「あ……それなら、好きなシーンなら……えっとね……あの、お母さんと目隠し鬼のシーン」
奏「ああ.。あのシーンは良かったわね。怖かったし、この『死霊館』がどんな風に怖いのかがよく表れている場面だと思うわ」
涼「具体的に言い過ぎるとネタバレになるかな? ま、予告編みたいに思ってくれればいいか。えーと……。

 父親は仕事へ、上のお姉ちゃん達は学校へ。家に残ったのは母親と末妹の二人だけ。
 一緒に遊んでと母にせがむ娘が提案したのは目隠し鬼。鬼は目隠しをして家のどこかに隠れた子を探さなきゃならないんだけど、3回だけ相手に手拍子をおねがいできる。

『どこー? つかまえちゃうわよー?』

 まだ馴れない家だからかところどころに足をぶつけたりしながら、危なっかしく娘を探す母。手探りで娘達の部屋に入ると……そこにある古びたクローゼットが少し音をきしませながら開いた。
 それを聞きつけたお母さんは、笑顔になって『見付けたわよー。さあ、手拍子をおねがーい』
 ……するとクローゼットのなかから異様なほどに細く、青白い手が静かに伸びてきて


(パン、パン、パン)


涼「と、手拍子をした。
 母は笑いながらクローゼットに向かっていく……


奏「ハイ、ストップ」
梅「……怖い、ね」
涼「怖い」
奏「本当に。脚本の妙とでもいうべき怖さよね」
梅「ふ、雰囲気も、大好きなシーン……大きなおうちで、静かにお母さんと女の子が遊んで居居るっていうだけなのに……なんだか、怖いの」
奏「そうね。技巧的な話をしちゃうとちょっと野暮だけど、このシーンだけを切り取っても、『目隠しをしているから無防備にそちらへ近付いてしまう』という演出が素晴らしいし、それに、このクローゼットが何かおかしいという点は伏線としてちょっと触れられているのよね」
涼「そうだね。夢遊病にかかっているコが、このクローゼットに向かって延々、ゆるく頭をごつんごつんって打ち付けたりしてる」
奏「伏線とその回収。脚本術っていえばいいのかな。超常現象を描いたお話なのに基礎の部分が合理的なのはちょっと面白いわね」


涼「……ところでさ。さっきの『パンパンパン』て手拍子、誰のだったか聞いていいか?」
奏「あら? 小梅じゃないの?」
涼「小梅はいつもの手が全部隠れる服だからさ。あんなきれいな手拍子は……いや! やっぱ聞かなかったことにする!」



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こわい。


涼「で! えーと! 合理的って話だったっけ?」
梅「うん。うん。合理的って言葉、それっぽいと思う。なんていうか……この監督さんの撮るホラーって、割と、今風? 近代的? みたいな感じも……するっていうか」
涼「ああ、そうだよな。ジェームズ・ワン監督は『ソウ』も『インシディアス』も撮ってるんだよな。あれもどっちも怖い」
梅「インシディアス、も、この死霊館と、似た部分が色々あるお話で……えっと、引っ越した先で、怖いことがおきちゃう話、なんだけど、『このお家、なんだか変なことが起きて怖いの』『じゃあ引っ越そうか』て、ほんとに引っ越しちゃう……」
涼「そうだな。アレは観ててちょっと驚いた。普通なら引っ越したいけどそうできない理由があったりで、逃げ場のない怖さみたいな撮り方が多いよな」
梅「でも……逃げられない……」
奏「今なんだか楽しそうに言ったわね。でも、一度逃がして、でも逃げられないと確かめさせるのがまた怖い演出に繋がる、と」
涼「家が変だから引っ越せばいいという判断も今風だし、あの、ベビーベッドのそばにマイクを置いてたよな? おかあさんが離れてても声を聞けるように。アレをホラーの仕掛けとして使ったりとかも現代風て言っていいかな。そのへんの細かさが……なんていうのかな」
奏「リアリティ?」
涼「それね。ウォーレンさんは本職のエクソシストじゃないから教会から来てもらわないといけないとか、派遣してもらうにしても依頼された家族はクリスチャンじゃないから余計に手間がかかるかもーとかいうじれったさもさ」
梅「い、インシディアスでもそうだけど……幽霊の、正体を確かめようとする、えっと、カメラとか、紫外線とか、熱探知とか、用意することが……ほっとするようなんだけど、でも、やっぱり怖いことに繋がるんだよね」
涼「そうそう。それを感じる。こっちを怖がらせることに細かいアイディアがある」
梅「う、嬉しいよね……すごく
涼「嬉しいか? まあ嬉しい、か?」
奏「サービス精神に溢れているっていえばいいんじゃない? 超常現象は文字通り、常識を逸脱した出来事だからそれを表現する為に飛躍したアイディアが必要になる。けれど、突飛すぎるとリアリティがなくなっちゃって怖くなくなってしまう。そんなところじゃないかしら」
涼「お。なかなかざっくりまとめたね」


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心霊科学調査というのもどこか時代がかってるよね。


涼「サービス精神っていえばさ、この監督のホラー作品全般にいえることな気がするんだけど……ええっと。あー、ネタバレなしに話進めるの苦手だな。アタシ」
奏「あら。とりあえず言ってみれば? ネタバレ禁止のラインは小梅に判断してもらいましょ」
梅「え、わ、私?」
涼「そうだね。小梅に任せるとして。えーっと……。途中まではむちゃくちゃ怖いんだけどさ。敵がおばあさんの姿だとさ、なんか『あ、なんか勝てそう』ってなって、ちょっと安心しない?」
梅「え……ええー……?」
奏「勝てそう。って」
涼「いや殴ったり蹴ったりで解決する話じゃないのはわかってるよ? でもさ、幽霊とか、あのあたりが怖い理由って『勝ちようがないから』じゃないか?」
奏「それならまあ、わかるかな。抵抗手段がないってことよね」
梅「あれ……でも、それって……死霊館でも、インシディアスでも、どっちでも言える……?」
涼「あー。そうかもな」

奏「死霊館は?」
涼「最初はすげー怖いけど、おばあさんが出てきたら『あ、勝てそう』って思った」
奏「インシディアスは?」
涼「最初はすげー怖いけど、おばあさんが出てきたら『あ、勝てそう』って思った」
梅「ええー……?」
奏「死霊館2は?」
涼「この悪魔、『マリリン・マンソンにちょっと似てるな』って思った」
梅「あ、それは私も思った」

奏「でも、そのあたりはいわゆる和製ホラーが、黒髪の女性にばっかり幽霊役をやらせがちなところから来てるんじゃないかしら」
梅「そ、そうでないのも、あるよ……?」
涼「そんな気もする。海外のひとからみると女の幽霊の方が『あ、勝てそう』って思ったりもするのかもね。アメリカホラーだと悪魔とか怪人とか魔女だもんな」
梅「そ、そうでないのも、あるのに……」
奏「そうね。一般的な偏見をあんまり広げすぎるのもどうかとは思うけど」


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『幽霊』の画像検索結果。


奏「ちょっとお話を戻すと、サービス精神というのもこの映画、というよりも、ジェームズ・ワン監督作品を読み解く鍵になりそうじゃない?」
梅「鍵?」
奏「特に死霊館の続編のエンフィールド事件だと分かりやすい気がするんだけど、こんなに、あれだけ怖いのになんだかデートムービーにも最適っぽいところがない?」
梅「うん?」
涼「小梅はちみどろスプラッターでもデートムービーに選べるからその例えはいまいちかも知れないぞ。というのはおいといて、エクソシストものなら悪魔払いも当然あって、そのシーンもまた怖いといえば怖いんだけど、ホラーとはちょっとタイプの違う怖さになってるよな? なんていうか、アクション映画のカースタントみたいな緊張感」
奏「スピードとスリルね」
涼「あとはアイディアかな」
奏「そういえば、ジェームズ・ワン監督はワイルドスピードも撮ってるのよね。その緊張感から解放されたあとには大団円がある、と」
涼「そうだね。ずっとじっとり後味の悪さが残り続けて帰り道まで憂鬱になるホラーもいいけどさ、こうやって、映画が終わることで、『あー! 終わったー!!』ってなる映画も嫌いじゃないね。このへんも、脚本術、近代的、サービス精神のどれにも繋がる話だと思う」
奏「そのあたりは、小梅的にはどうなのかしら」
梅「え? うーんと……うん……どう怖いか、とか、どこまで怖いか、とかは、ひとそれぞれだし……で、でもね? あの、ホラーって、怖くて、映画のなかのひともすごく怖い思いをしてドキドキするけど、そのドキドキが伝わってくれば伝わってくるほど、いいホラー映画だから……」
涼「そうだね。臨場感というか、感情移入というか」

梅「そう。感情移入……助かってほしいとか、死なないでほしいとか、逃げてほしいとか……そうやって、緊張してみちゃうから、それだけ、あの……家族を守る、とか、恋人を助けるとか……そういうドラマも、怖ければ怖いほど、観てるこっちも真剣に観ちゃうと思うから」

奏「ホラー映画には、ホラー映画だからこそ描けるドラマがあるってことかしら」
梅「うん。そう思う……あの、死霊館のエンフィールド事件の方なんだけど……『信じてくれる味方が一人でもいれば、奇跡は起こる』みたいな台詞が……すごく、好き」
涼「確かに。あのセリフは良かった。ほんとに」
梅「だから、やっぱり、死霊館って、いいホラー映画で、好き」
涼「そうだなー。家族と一緒にとか、恋人と一緒にって進められるホラー映画もなかなかないよな。特にエンフィールド事件のほうはさ」
奏「とはいえ、誘うならパートナーの趣味をちゃんと押さえたうえでどうぞ、といったところかしら」



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やっぱ愛ですよ。愛。



涼「さて! 収録時間いっぱいだね。今宵のニューアイドルシネマパラダイスはこのあたりでクランクアップ!」
梅「あ、じ、じゃあそろそろ、さっきのお話の続きしても、いい?」
奏「あら? さっきのって?」
梅「か、奏さんが、私のこと苦手だったって、話、だよ?」
奏「……そうね。その……収録には使わないって約束をしてくれるなら……」
涼「おー。イイ笑顔だね、小梅」


>>お次は『ヴィジット』
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