劇場版艦これの感想というか雑想というか。

 龍田さんが出るらしいんで100点はもう確定なのだけど。
 問題点としては龍田さんが出るだけで100点が確定ならば鑑賞しなくったって100点なのだから別に観る必要はないんじゃないかなというあたり。


 先に感想を言えば、ココナッツ料理が駆逐連中の口に合わず笑顔でムキになって改良加えまくってる龍田さんが可愛かったし。後のシーンで椰子の木に登る駆逐連中のサービスカットがあったけど、あれは龍田さんの努力が実ってもっとココナッツ料理作ってもらおうとしてるって解釈でいいんですかねー。
 あとあの新型深海棲艦と差し違えたシーンの「これ、天龍ちゃんが使いたがってた艤装なの。痛いでしょう?」てスクリーンに映らなかった諸々を察せさせる一言はあれ……おかしいな。4DX上映でもないのに……なんでおれの両頬がこんなに濡れているんだ……て気分にさせられたし。劇場オリジナルの龍田改二はあれ先行サプライズ公開ってことでいいんですよねー。
 あとは深読みかも知れんけど、龍田さんの薬指がちらちら光を反射させてるシーンがあったけど、アレはカッコカリ済ってことでいいのかなー。どうなんですかねー。



*溜息*



 ネタバレはこのへんにしてこの行付近からネタバレに配慮なく感想を書いていきます。
 最初に言える一言は「うわすべり」です。二言目があるとすれば上っ滑りです。
 全体として決して悪くはない映画だったーということを前提としても、細かいシーン大きなシーン含めて映像がおれの心を滑っていって感じ入ることができない。
 戦闘シーンの迫力を褒める声はあれども、その迫力も「その戦闘の意味」を観覧者が理解できていなければ音のない花火みたいなもんです。


 その意味において「なんか特定海域に異常が発生してるから司令官不在の状況だけど司令官代理の独断において全勢力注ぎ込み玉砕覚悟で原因究明しようぜ!」と言われても。にんともかんとも。
 もちろん、起きている異常を放置していてはこの前哨基地を放棄しなくてはならなくなるーという実利的な作戦目的も含まれるわけだけど、それにしたって「味方を一人も倒されることなく敵全員を殲滅しなければならない」という困難な勝利条件が明かされた後に行われる勢力戦です。覚悟すべき損害に対して軽率過ぎやしないかと。
 議論や葛藤が尽くされていないのではないのかと。例えば大変意味の重い損害を回避し一時撤退を決め込む作戦だってあったんじゃなかろうかとか。或いは、そこまでして守らなければならない大事な拠点であると観覧者に開示するだとか。そうしたドラマを取りこぼしちゃいませんかね。
(そんな大事な拠点をほっぽり出して提督がどっか行ってるわけだけど)


 意味合いとして大きいのは察せるんですよ。
 赤く染まる海の中心点は、多くの艦が沈んだ鉄底海峡。そこには私たち艦娘の起源があり、行く末があるのかも知れない。
「自分自身が何であるか。艦娘とは何なのか」という問いは彼女らにとっても、提督である私らにとっても大きな疑問であり、その答えへの衝動はそりゃあ例え血路を開く覚悟で、どうしようもなく、問い糾したくもなるかもしれません。
 んでもそのへんのフォローがとくにはなく。私にとっては「なんか特定海域に異常が発生してるから司令官不在の状況だけど司令官代理の独断においてこの戦争そのものの最終目標から遠ざかっちまうかもしんねえけど全勢力注ぎ込み玉砕覚悟で原因究明しながら理由はわかんねーしそれでどうなるかはさっぱりわかんないけどせっかくだから異常の影響を受けないこの吹雪をオレたちみんなの命賭して投げ込んでみるぜ!」程度にしか映らんかったわけです。


 全編にわたって、大きなシーン、細かいシーンでそんな感じやねんな。
 事の重大さのレベルがわからない。どのくらい重大なのかだけでなくどのくらい些事なのかもわかりづらい。
 小さいところではダメージ表現だよね。深海棲艦はどっかんどっかんはじけ飛んでるけど、一方で艦娘はおでこから血を流して片眼が塞がれるくらいでそれがどんなダメージでどれくらいの深刻度なのかがわからない。霧島や鳥海の眼鏡が割れたらば「ヤベエ修復材もってこい!!」て気分にはなるけど。
 お話の中心である如月の深海棲艦化だってそうだ。彼女と睦月当人にとっては大きな問題だろうけども部隊及び艦娘みんなにとってどのくらい深刻な話題なのか。沈んだはずの仲間が帰ってきたんだからもうちょい騒ぎになってもええんちゃうのか。だって沈んでもまだ帰ってこれる可能性があるってことだぜ。まだ沈んでない娘にも、僚友を失う可能性を持つ娘達にとってもすげえニュースじゃないのか。それとも内輪の復員なんであんま話題になってないのか。あと加賀さんも帰ってきた組なのになんか全然平気やんそういう先例があるんやから睦月ちゃんもそこまで深刻ぶらんでもええんちゃうんてゆか赤城さん加賀さんそういう希望を持てるような話は吹雪やのうて一番悩んでる睦月にしたれやみたいな。
「以降、この事案を一級機密とし口外を禁じる」と宣言はしたはいいものの「D事案ですか」「D事案ですって?」「D事案らしいわね」ってみんな知っとるやないかーい同僚にもべらべら喋っとるやないかーいという拍子抜けもあるし。艦娘は基本構造が女子でお話好きだから口に蓋ができないのだ! というポリコレに触れそうな話でもあるかもしれませんが!
 吹雪ちゃんが特殊な艦娘だったというネタばらしもなあ。ははあ。うん。なるほど。だからそれで……え、なに? て感じだし。
 とにかく細かいところ細かいところ細かいところまでそんな感じで大きなところも大きなところもそんな感じだった。


 半端なシナリオで迫力の戦闘シーンを描くくらいなら同じ迫力の戦闘シーンでもってゲームの方のイベントのリプレイでも映像化した方がよかったんじゃないですかね。アイアンボトムサウンドのイベントなら当時のトラウマを呼び起こす提督もでて感情移入もひとしおだったかも知れないじゃないですか。


 と、放言するほどには作品そのものには悪い印象はもってなかったりもします。
 評価できる部分はあって、それは艦隊これくしょんという作品そのものが持つテーマへの言及だ。
 臆面もなく言葉にまとめると
「どれだけ戦争を繰り返そうとも、戦いに望んだ人々は常に希望の為に戦ったのであり、それを覚えて、感じ取ってくれる人がいるのならば、繰り返しの果てに意味が生じるのかも知れない」てことで。
 それは二次大戦という悲劇の、或いは渦中にあった艦船の名前を借りて表現された艦隊これくしょんという作品が持つかもしれない意義でもある。
 戦争の中心にある兵器を擬人化し、感情移入することで、彼女らが中心にいた戦争というものを知るのである。


 ……そういう話でいいよね?
 違ってたらちょっと恥ずかしいんですけど。
 そういう視点でみたら、吹雪の「ずっとここにいなくたっていいんだよ」て一言もわかりやすくなる感じがせえへん?


 だからもうちょっと。こう。
 吹雪ちゃんには「違うよ。私が、あなたが、あのとき思っていたのは、怒りや、恨みや、後悔じゃないよ。守りたかったっていう大切な人の記憶と、帰りたいっていう幸せな場所への思いだよ」みたいに、わかりやすく言うてくれても良かったんじゃないですかねー。
 単に私がそういう台詞が欲しかったというだけかもわかりませんがー。


 お話の焦点がいまいちあわず、ぼんやりした印象になってしまった原因のひとつが、大きく取り扱われた如月のエピソードだと思う。
 今劇場版とのテーマにはずいぶんと寄り添ってるエピソードなはずなんですよ。なぜ如月が帰ってきたのかというとそれは睦月ちゃんへの執着な訳でしょう。
 守れなかったという後悔が彼女を蝕んでいたんだけども一方でそれは彼女が守りたいものへの思いの強さでもあると。そうした感情の濃さ故に彼女たちは悲劇を繰り返してしまうわけだけれども、しかしその想いそのものは否定なんてできない。
 その割にはなんかこう……本格的に喜んで悩んでるよう表現されたのは睦月ちゃん一人だけにみえたし。先にも書いたけど、沈んだけど帰ってこれた存在てのが実際に命晒して戦う娘連中にとってどれだけ福音であるかを思うと。どうにも宙ぶらりんだし、そこが浮いてると艦娘の死生観もうすぼやけちゃうよね。
 例えばさー。


「龍田って、如月と同じ部隊だったっけか? やけに喜んでるよな」
「ウチの末妹ちゃんは相変わらず鈍感だね。一度あることは二度あるかも知れないじゃん?」
「なに言ってんだか全然わかんねえ」
「……天龍のことクマ。天龍がここの補給線の護衛艦やってて……龍田がそれの『後任』としてやってきたのは木曾も知っているはずクマ」
「ああ……そうか。そっか……」


 みたいなさー。あるいはさー。敵軽巡洋艦と肉薄するも一瞬動きが止まりそれのせいで逆襲された龍田さんがさー。
「おばかさんだなあ、私……ちょっとだけ、このコが天龍ちゃんなのかもって思っちゃって……まちがえるはずないのに。どんな姿になってたって、私が天龍ちゃんを見間違えるはずないのに……」
「龍田さん……? 龍田さーーーーーーーーん!!」
(降りしきる雨)


 みたいなさー。
 ところでなんで私はこの劇場版でそんなに天龍さんを沈めたがるんですかね。別に龍田さんと違って冒頭すごい目立ってたよね的なことで逆恨みしてたりはしてませんけど。
 ていうかむしろ龍田さんなら「それは、私が、天龍ちゃんだったコを沈めなきゃいけないってこと……? そうなの……ごめんなさい。ちょっと席外させてもらうね?」「龍田さん……やっぱり、悲しそうでしたね」(え。なんか喜びに震えてるように見えたけど)(ヨダレ垂らしてなかったかあの女)みたいなドSっぷりを発揮しそうな気もするけどそうでない気もする。


 いっそのこと如月ちゃんは最初から深海棲艦姿で登場してたらどうだったでしょうか。
 どうみても如月ちゃんであり、必死に呼びかける睦月。それに応えたのか攻撃を逡巡する姿さえみせる。しかし無情にも砲火にさらされ睦月の目前で再び沈んでしまう。
 挙げ句、深く鬱ぎ込んでしまう睦月。目に余るその姿に長門自らが「想いの強い艦娘が沈んだ際、深海棲艦として蘇る事例が確認されている。そして、それを撃沈することにより再び艦娘として復帰することもある」と機密を明かし希望を持たせようとするも「そんなの、ただの繰り返しじゃないですか! 私達の戦いは一体なんなんですか!? 私は、あと何度、どれだけ如月ちゃんが沈むのをみなくちゃならないんですか……!」と叫び、その疑問は艦娘全体に波紋を投げかけてしまうと。
 そうすりゃ話は早いし、鬱展開ヤダーという向きにもきっちりエンドロール後のアレで対応。
 早くなった展開のおかげで各キャラの描写に割く時間が増えるし。ていうかモバマスじゃねえんだからモブ同然のキャラをファンサービス目的で無闇にカメラに写すよりかは数は減れども登場する艦娘に登場したなりの意味を持たせてやった方がいいんじゃねえかなと思うモバマスじゃねえんだから。


 艦娘全体が疑問を持ち答えを探すならケンカめいた衝突だってあるでしょう。
 無闇な原因究明よりも、艦娘を一人も失わず深海棲艦全滅という至上目的達成の為に拠点を放棄してでも一度引くべきだとの慎重論を主張する加賀。
 それを消極的姿勢だと受け取った瑞鶴は、加賀が深海棲艦と化していた噂を聞きつけ「原因を明かされたくないから消極的になっている」と早とちりをし糾弾する。
 からの「私は、あんな想いを誰にも知って欲しくないだけよ」ときて「……ごめん。昨日は、あんなことを言っちゃって」という展開。


 そうやって波紋が広がっていくならばそれを取りまとめる者の責任も増すでしょう。
 提督不在を埋める代理人であり、連合艦隊旗艦である長門が迫られる決断。その苦悩に艦娘個人としての思いが加味されるならば、提督不在というなんか視聴者への言い訳めいた配慮も、その位置に長門を据えるためという物語上の必然が生じるんじゃないですかね。
「往こう。そこに私たち艦娘の起源と行く末があるのなら、私はそれを知りたい。そしてそれが私たちが戦う理由の糸口となるならば、皆の為に、連合艦隊旗艦として知らなければならない」
「あらあら。ずいぶん危ない火遊びね」
 とかなんかそーいうさー。
 そういう悩みがあるならばそれぞれに自ら答えを見付けにゃならんわけですよ。
 上の言うことに無私の如く従います大義の為の礎となります的軍隊気質な姿勢もいいけれど、苦悩がありながらも、各々に答えを見出し、自ら、決然と、立ち向かう姿だって凜々しくも健気じゃないですか。


 とかどうとかで、もう結果の出たものを後出しじゃんけんみたいな論調でほじくってもしょうがないんだけど。
 先に言ったとおり、言うほど悪い作品だったとは思ってません。もっとも個人的な不満をあげるなら、大和さんが砂浜にあのミニスカで無造作にぺたんと座ったところで、それはまあ艦娘だからおしりが濡れたりすることにもはや何の意識も払わないのねという自然さでもあるかも知れませんがそれにしたって立ち上がったときにおしりをぺんぺんと叩いて砂を払う仕草くらいは是非ともほしかったおれはそういうフェティシズムをアニメという映像作品に求めているんだとかそれくらいです。
 どのみち龍田さんが出た時点で100点だしな。