こんな妄想で遊んでます世界樹の迷宮5。
死んでいるひとはたくさんみてきたけれど、生まれてきたばかりのひとはみたことがない。
だから自分が生まれたばかりのときがどんなだったか、ちょっと想像しづらい。想像したこともあんまりない。だけど、漠然と、 土のなかから這い出してきて、そこに通りがかったジジーに拾われたのだと思っていた。
虫も草もキノコも土から出てくるのだから、筋道の通った想像ではあるけれど、多少は物事に詳しくなった今ならそれがハズレなのだとわかるし、ジジーがいわゆるお父さんお母さんの代わりに自分を育ててくれたのもわかる。
それでも、墓荒らしが悪いことだとは今日になるまで知らなかった。
ジジーがまだ生きていた頃でもだいたいお腹が空いていた。
このままずっとお腹が空いていたらどうなるのかとジジーにきいたら、「棺桶のなかにいる連中と同じになる」と言われた。それが悪いことだとはあまり思えなかったけれど、お腹が空いているのは気持ち悪いことだったので食べられるときにはなるべくご飯を食べた。
頭と喉とお腹が痛くなって動けなくなったとき、どこからか毛布や苦い薬を持ってきてくれるジジーに、ずっとこのままだったらどうなるのかときいたら「棺桶のなかにいる連中と同じになる」と言われた。
それがイヤなことだとはあまり思わなかった。
というよりも。ベッド代わりの棺桶で毛布にうもれながら、このままお腹も空かず、暑さも寒さも、痛さも苦しさもなく、ずっと眠っていられるのなら。それはとてもいいことのように思えた。
いつかそうなるのなら、はやくそうなってほしい。
だけど今はまだその日ではなくて、そのうちそうなる日のための準備をして過ごしているのだろうと、そう思っていた。
だから、ジジーが死んだときもそんなには悲しくなかった。
朝起きて、日が高くなってもジジーは目を覚まさなかった。そうか。ジジーの番が来たのか、と眺めていたら、ジジーは寝転んだまま、イヤな臭いをまき散らしながら、どろどろに溶けながら、たくさんの虫や小さなケモノにかじられながら、棺桶のなかの人と同じになっていった。
悲しくはなかったけど、おいてけぼりにされた気分にはなった。それでもふてたりせずにちゃんと棺桶を用意して、お墓を作ってあげたのは、ジジーに何回も言われていたからだった。
「オレが死んだらお前がオレの墓を作れ。そのためにこうしてメシ食わせてやってんだ」
なんでそんなにしてまで自分のお墓が欲しいのだろう。とは思わなかった。それはそういうものだと思ってた。
でも実際に、誰かのお墓を作ってみると。たしかに。
このまま一人ぼっちで、「自分の番」がきたときにも一人だったら、誰も私のお墓を作ってくれないのだと気が付いてみれば、なんだか何かをすごく急かされているような、それなのにどこに行けばいいのかわからないような、とにかく落ち着かない気分になるのだった。
そこから先は一人で墓荒らしをして生きた。
ジジーの手伝いをずっとしていたので、森の中で眠り、旅をして、村をみつけて、墓を探し、夜中に掘り起こして、お金に換えられるものの見つけ方や、お金に換えてくれるひとの見つけ方もそれなりに心得ていた。
墓荒らしは、面白かった。
首から上がない死体。立派な剣が胸から背中に刺さったままの死体。抱き合ったような格好で一つの棺桶に二人で入っている死体や、棺桶いっぱいに花が敷き詰められたなかで眠る小さな死体、大きなツボにぎゅうぎゅうに詰められたたくさんの死体。死体はないけれど、棺桶いっぱいに本が収められていたこともあった。棺桶の中を見れば、その人がどんな生き方をしてどんな風に死んだのかがわかる気がした。
死体になってからもう誰からも忘れられている人。死体になってもまだ大切にされている人。
いつだか、お墓の前で膝をついて、うつむいて、ずっと目を閉じている人をみかけたことがある。死んだ人とそうやってお話をしているのだと気付いて、ジャマをしちゃダメだなと思って、その人が帰るまでずっと待っていたこともある。
だから、本当は今日になる前にもずっと、気付いていたのかも知れない。
大切にされているお墓を荒らして、その中を勝手にあけて、誰にも気付かれないように中身を持って行ってしまうのは、その死体を大事にしている人を悲しませることなんじゃないかなと。
だから、墓荒らしをしている最中に、急に怒鳴りつけられて、急に殴られたときには「ああ、やっぱり」と思った。
月の明るい夜だったけど、それが良くなかったのかも知れない。
雨みたいに落ちてくる拳。何度も体の中に入ってくる 硬いつま先。
暗いから、何人の大人に囲まれたのかわからなかった。それでも、なんで殴られているのかはなんとなくわかった。
悪いことをしてきたのだから怒られるのも仕方ないと思った。
謝れるなら謝りたい。
体の中で何かが砕ける音がした。口や鼻や色んなところで血がぬるぬるとした。もう痛いのか熱いのかもわからない感覚にしびれながら。
ああ。
こういう死に方もあるんだと思った。
この人達はきっと、わたしのお墓は作ってくれないだろうな。
なんだかそれが無性に寂しくて、泣きたくなった。許してほしかったけどもう誰に謝ればいいかわからない。暖かいところにいきたくなったけどそれがどこかわからない。誰かにそばにいてほしくなったけど、もう誰もいない。
泣くことだけは出来たから、ただ泣いた。
涙の出てくるところから、お腹の空くところから、冷たくて黒い感情がわき出してきて、目の前が真っ暗になった。
それから短い夢をみた。
死んだわたしをケモノが囓って、食べ残しに虫がわいて、次に草がはえて骨になって。土になって。その土を吸い上げて樹がたっていて、それが森になっている。
そうか。
死んだ後はみんな土になる。土はすべて死体でできていて。
樹はお墓なのか。
視界の及ぶ限りの向こうにまで緑色に茂る無数の墓石がならび、そのもっと遠くにとても大きな樹がみえた。
目を覚ますと、知らない女の子が膝枕をしてくれていた。
急に怒鳴られて殴られたお墓と同じ場所。気を失ってからそんなに時間は経ってないみたい。
そこから少し離れて、どろんとした目をした男の人が突っ立っていて、目が合うとぼそりと言った。
「助けたわけではありません。ただ……彼らは少しやりすぎのように思えたので」
彼ら? と、あたりをみると、大人が四人寝っ転がっていた。そうか。この寝っ転がっている人たちが私に怒っていた人たちで、この女の人と男の人がそれをとめてくれたのか。
やっと理解できたところで、男の人はこちらに背を向けて夜の森の向こうに行ってしまう最中だった。
おでこのあたりを柔らかくて暖かいものがもぞもぞ動いている……と思ったら、女の子が頭を撫でてくれているのだと気がつく。
暖かいし、誰かがそばにいてくれている。さっき思ったことが一度に叶った。
お礼を言いたくなった。同時に謝りたくなった。
どっちを先に言おうかと迷ったタイミングで、女の子に鼻をきゅっとつままれ、顔をぐいっと横に向けられて、口に指を突っ込まれて引っ張られれば、半端に固まった血とよだれがぼろりと出てきた。……そうか。今まで息できてなかったんだ。
次に脇の下に手を添えて立たされた。女の子と向かい合う形。彼女の方が背が小さい。つるつるすべすべと全身を撫で回してきて(くすぐったい)、ひとしきり撫でたあと、うなずいた。怪我が残ってないか確かめてくれてたのだと思う。
そのままくるりとひるがえり、ざくざくざくと森に向かって歩いて行く。
その背中が小さくなっていくのがなんだか悲しかったので、思わずついて行ってしまう。すると、足音が聞こえたのか、くるりとこちらを振り向く。
月明かりで出来た森の影を通して目が合う。
首を傾げる仕草をされる。
何かを訊ねてきているのだろうか。それともこちらから訊ねたのかな。確かに、後ろからついていくのは何かを訊くのと似た行為だったかも。
すると彼女は、前方、高い位置を指さした。
その角度が、樹の上を越えて遠くを指しているように思えたので、なんとなく気がついた。さっきの短い夢で見たあの大きな樹を指しているのだ。
そこに行く、ということだろうか。あの、とても大きくて大きな、何もかもの為に立っているようなお墓に。
私も行きたい。
気がつくと、もう一度彼女と目が合っていた。
彼女はうなずいて。
またくるりと背を向けてさくさくと、指さしたのとぴったり同じ方向へ歩き出す。
私もそれについて行く。
アノロ
という感じで、墓荒らしに拾われて墓荒らしとして過ごしてきた少女。
境遇の割に最低限の社会的良識を持ち合わせているのは持ち前の観察眼のおかげだろうか。
死ねば土になる。樹は土から養分を得て育つ。ならば世界樹は世界そのものの墓碑なのだろうかという思いつきに強烈な興味を引かれ、世界樹の踏破を試みる連中にひっついて行動することとなる。
死霊術は上述の、乱暴な連中にぶん殴られたときから自然と扱えるようになった。
あるは
エトリア、ハイラガード、アーモロードと、これまでにいくつかの世界樹を踏破してきたベテランロリ。
4の世界樹はどうしたんでしょうね。まあたぶん突破してるんじゃないかなおれが知らないだけで。
無口でロリなので周りの連中は彼女が相当なベテランだと知らない。
けれども妙に迷宮慣れしている立ち振る舞いから自然と一目置かれている水先案内人。
レットレゥ
将来を誓い合った恋人に先立たれた青年。
後追い自殺が未遂に終わり、以降、死後の世界について妄執じみた興味を抱く。
それが実在するならばもはや迷うことなく死にたい。
だかそんな世界がないのなら? あるいは、天国や地獄のようにいくつか存在するのなら?
先走って迂闊な自殺をしては二度と彼女に会えなくなってしまう。
善行を積んだ者のみが行ける世界。あるいは、来たるべき善悪の全面戦争に備えた世界。もしくは、死と生とを何往復もする輪廻転生。
煩雑すぎる。どれかひとつなんて信じようがない。それなのに人は一度しか死ねない。
墓守の依頼を受けたのは路銀のためでもあるけれど、それ以上に、墓荒らしという無恥な輩が何を思いながらそんな冒涜を重ねているのか知りたかったからだ。死者の尊厳を冒すなど最も恥ずべき行為だ。私怨なのか義憤なのかわからないものに駆られその依頼を受けたけれど、その情熱はあっさりと後悔に変わる。同行することになった連中が、墓荒らしだとかどうとかはもはや関係なく、誰かを殴ることで金をもらうという仕事を、この世で最も気楽な仕事だと思ってるような連中だったからだ。
月の明るい夜が、余計にその横顔を華奢にみせたのかも知れない。
それだけで虚を突かれたけれど、それ以上に……人の成れの果てを、それはもはや骸骨であり、人を連想させるものでさえなく朽ちたそれを、起こし、抱き、汚れを払い、慈しむような。内緒話を交わすようなその所作が、墓荒らしという言葉面から連想するそれとはあまりにかけ離れていて、戸惑ったのだ。
しかし連中は頓着せず、棍棒で彼女の側頭部をぶん殴った。
その所作に気にかかるところがあるとはいえ、目の前で行われていたことは確かに墓を暴く行為だった。だから連中の乱暴をとめるべきか逡巡する。……だが客観的にみるべきだ。浮浪児そのものの痩せた娘を大の大人が取り囲み暴力のほしいままにするという構図は、やはり人倫から外れている。
「そこまでにしろ! 暴力が過ぎるぞ!」
制止の声をかけながら警告を込め軽く電撃を放った。
それと同時に、人影が走り、長柄で一人の男を打ち据えて昏倒させた。
― ―彼女に仲間がいたのか?
身構えるも、それ以上に、連中の残された一人の……困惑し、てめえなんだ裏切ったのかだのなんだこのやろうだのと意味の通らないことをわめくその背後に立ち上ったものに気をとられた。
目に見えるほど大きな雨粒をした黒い霧のような、羽根も身も黒い羽虫が無数にたかり出来た雲霞のような何かが、気がつくと数頭、男の背後にぬうと立ち ― ―それと意識するまもなく、男の頭にかじりついた。
男は悲鳴も上げず崩れ落ちた。
咄嗟に連想するものがあった。死霊術だ。土水火風の力でなく、人の怨恨を糧に行使される呪術。
夜の中の森の影の中にあってなお暗く、黒く人の形に区切る何者かが数頭、底冷えする敵意をもって立ちはだかってくる。
しかし気圧される間もなかった。
彼女の仲間と思われる人影 ― ―少女が、踏み込みも鋭く、 携えた長柄二度三度四度と閃かせれば、それらは霧散した。
あとに残るのは、好き放題に打ち据えられ、無残な姿で横たわる墓荒らしの少女だった。
酷い痣と、滲む血と。それらよりもずっと、昏睡のままに今もこぼれている涙が痛ましく印象に残った。
迷信は信用しないタチだった。
死霊術も迷信の類いだと考えていた。確かに、呪術によって何らかの現象は起こせるだろうけれど、その源が怨恨や死者の情念というのは、単にはっきりと判明していない法則を印象のままに語っただけだろうと解釈していた。
だけど……もしそれが本当に死霊を扱う術ならば、それは違った形で死後の世界を解明する手がかりとなるのではなかろうか。
そして、あの夜にみた死霊(仮)は……あの、気絶している墓荒らしを守るように立ちはだかってきたようにもみえた。
死者と心を通わせることなど出来るのだろうか。
世界樹を制覇したものは、万象に読む知識を得られるという。
そんなものは迷信の類いだと考えていた。そもそも、何もかもの答えとはなんだ。生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えがわかると言われても、曖昧に過ぎる。
具体性が何もない。
しかし、或いは、もしも仮に、そのような答えがあるのだとすれば、死後の世界の解明にも近付くのではなかろうか。
何にせよ、あの夜のことがもどかしく引っかかり続けていた。
そんな折りに、アイリオスの街であの墓荒らしの少女と再会した。
トリニダート
割と良い身分の貴族の娘。
高貴な生まれにともなう責任感をよく自覚し、文武ともによく修め、国への忠義も厚く、弱者への施しも忘れない。
第三者からみても理想形にほど近い立ち振る舞いの騎士。ただし、自己規範の強さゆえそれを他者にも押しつけがちな面は差し引いて評価する必要はある。
第三者がみるからこそ理想的な彼女の騎士像は、しかし内部を子細に観察すれば歪な形をしている。
その志を形作ったのは、様々な物語に語られる伝説の騎士像である。
詩人が記し、書物の語る様々な気高く、凜々しく、かっこいい騎士は、それぞれに、友を庇い気高く死に、王の命に応え凜々しく死に、恐ろしい獣に挑みかっこよく死んでいる。
大団円に終わった騎士道物語ももちろんあるだろう。例えば、意中の姫君と結ばれ平和にくらしました。めでたしめでたし。
しかしそれは、その騎士様がやがて迎えるかっこいい死に様がまだ描かれていないだけなのだ。
理想に燃える騎士である彼女は、彼女自身の終着点を既に見据えている。
どんな姿かはまだわからないけれど、いつか私もかっこよく死ぬのだ!
アイリオスは今、街をあげて迷宮の攻略に勤しんでいる。
国に仕える貴族としては無論、その一添えを果たすべきだ。
世界樹の踏破という峻厳な目的の達成を志す者たちとならば、高潔な友情を結べもしよう。
問題は、それほどの崇高さを持つ者達が決して多くはないことだ。
そんな悩みを持ち街で用向きを片付けていたところ、あるはとアノロとレットレゥに出会う。
正確には、いつかの夜の森でアノロを打ち据えたあの荒くれ連中と偶然出会い、意趣返しを受けるも、あっさりと退けたあるはの姿を見初めたのだ。
テンゼン
武家の家の末弟。
戦場での死こそ武人の誉れと教えられて育つも、武官だの師範代だのと戦場から外れた場所に職を得た兄貴連中に疑問を感じ出奔。
ならば戦場に身を投じるかと言えばそうでもなく、真の武芸とは一対一の状況下にこそ最も強く問われるとかどうとか言い、それは避けている。
体よく言えば武者修行中の身ではあるけれど「命を賭すほどの相手・場面ではない」という理屈をしょっちゅう用いるあたりに本性が透けてみえる。
刀の愛好家でもある。
工芸品の美しさこそあれど、刀の真の美しさは、骨を割り肉を断ち、何者かを殺すという単一の目的に特化したあまりに潔い存在そのものにあると解釈し、であればこそ、刀が最も美しく映えるのは何者かの命を斬り捨てた瞬間であると力説する。
命を晒し武芸に励んでこその武家だからなのか。
刀の美しさに浸るため、体良く斬り捨てられる存在がそこに溢れているからなのか。
どちらにせよ世界樹は彼にとって都合の良い舞台だった。
トリニダートとはお互いに家名を知っているという程度の知り合いだったけれども、知人であるには違いない。
その縁故から同じギルドの庇に入るが
「死ぬことを最終目標にして武芸の極みに達せるものか」
「目的をともなわない武術などただの暴力と大差ない」だのと反目しあっている。
マルナコ
敬虔な心根を持つ真面目な努力家の巫女。
元より神秘であり、才能によるところの大きい巫術を、観察と勉強により身につけてきたある種の天才。いずれはそうして蓄えた知識を体系立て、より多くの者が巫術を学べるよう整え、世界へ貢献するというのが彼女の大望である。
けれどもその努力は一般的な感性を持つ者にはあまり認められず、人当たりの良い性格と優れた巫術の持ち主にも関わらず孤立しがちだった。
彼女の観察と勉強は、おおむね死骸に向けられるのだ。
迷宮を転がる死体にいちいち(嬉しげに)足を止め、獣を殺せば斬殺か刺殺か撲殺かを事細かく(嬉々として)訊ね、珍しい原因で怪我をすれば治療を後回しにして(楽しげに)観察し、倒しなれた魔物ともなればどの程度まで危害を与えれば死ぬかを(執拗に)試し……結果として、せっかく多くの教材にあふれた迷宮にいながらも同行してくれる仲間に恵まれずにいた。
迷宮の片隅で二人組の遺体を見付けた。おそらくはこの周囲には珍しい獰悪な魔物と遭遇し、倒されたのだろう。
それをいじくりまわして、もとい子細に観察している最中に面々とであった。
死体から死因を、つまりはストーリーを読み解く技術が、アノロの感心をひいて。
(こちらの方の足首に酷い打撲がみられます。おそらくは、この傷で逃走ができなくなり……他の方は逃走できたのかもしれませんが、こっちの彼は、体の正面にばっかり傷があります。盾と鎧と体に、同じ形の爪の痕がたくさんあるからきっと粘り強く戦ってて……おそらくは唯一見捨てられず魔物に立ちはだかったのが彼なのかな。足を痛めてる彼の手と腰付近が土に汚れてるのは這って逃げたから。それを差し引いても、逃げたにしては半端な距離。方角も袋小路に向かってるのを思うと、魔物に立ちはだかられたから。その二つをあわせると……きっと彼は、自分を守ろうとしてくれた人が、それでも抵抗及ばず殺されるところをみてる……痛ましいことです)
死因の解説に、効率的な殺傷方法を見出したテンゼンが興味を持ち。
志の高さにトリニダートが援助を申し出て。
要するにちょうど良い居場所をギルドに見出してそこに収まることとなる。
トトツカ
宗教家。
天国の扉は勇敢に戦った者にのみ開かれる。
素晴らしい教義だと感じた。
世に人の信じる正義は無数にある。だからこそ人同士が争わねばならない。
しかしそうして対立しあう者同士も、この教義の下に正しくあれば、お互いの正義を否定することなく(お互い殺し合うことで)ともに天国へ昇れるのだ。
強い者も弱い者も、富める者も病める者も、善人も悪人も、死を恐れず戦いに向かい(そして死に)さえすれば等しく神のもとへ導かれるのだ。
なんて平等な教えだろう。
と、開眼し研鑽を積むも世は比較的平穏であって戦場らしい戦場があんまりなかった。
人は何かを志すもの。なればこの世のどこかで必ず戦場は生まれているし、そしてこれからも生まれるのだろう。
やむなく今は、鍛錬のため、また鍛えた肉体でもって国に奉仕するため世界樹に巣くう魔物たちを天国に送る日々を過ごしている。
神の前に魂は皆平等。人であれ獣であれ、天国の門をくぐる資格はあるのだ。
アノロの使う死霊術は、彼女にとっては「悔いを残し死んだ者に再び戦って死ぬ機会を与えている」という尊い行為として映った。
レットレゥの、死後の世界の興味は迷いの一種であって宗教家として導いてやらねばと感じた。
諸々の都合で、ギルドに加わることとなった。
ラウタゲニ
あるはがギルドを申請する際に度々用いているギルド名。
今作では、なんだかんだで妙に「死にたがり」の連中ばかりが集まることとなった。
あるはは基本的に来る者一切拒まずという姿勢なので頓着はしていない。
それでこれまでどうとでもなってきたし、今回もまたどうとでもなるのだろう。