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戦車映画の話々。パットン大戦車軍団

映画話。 ガルパン話。

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 アフリカからドイツ軍を追い落とし、イタリアで暴れ回り、要衝にて包囲され孤立していた友軍を常識外れの進撃速度で救援し、ドイツ最後の大攻勢を察知しこれを防いだという、二次大戦下の米軍における最大のキーマンことパットン将軍を……というよりももはやアメリカの思う『国民的英雄』を描いた映画。
 戦史好きのみならず、一次大戦末期にて戦車を重要視し、機甲師団の編成を積極的に進言してた(けど採用されなかった)というヒトでもあるんで、戦車好きとしても因縁のあるおじさん。


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 一発でどんな映画かわからせてくるステキすぎな冒頭。


 今時の映画じゃまずみられないインターミッション(休憩)を挟み丸々3時間かけて描かれる国民的英雄の姿は、それにしても分裂症気味に色んな顔をみせる。
 戦場にいないと精神の均衡を崩してしまうほどの戦争狂いであり、規律に厳格な軍人であり。
 砲火に倒れた部下に額に慈しみ深くかき抱き、野卑な放言を繰り返しては政治的に失脚し、英軍と手柄を争い無謀な進撃を指示し、敵将の編んだ戦術論を読みふけり、敬虔に神に祈り、戦争神経症で「死ぬのが怖いんです」と泣く傷痍兵を「この臆病者め!」と殴りつけ、未だ硝煙がくすぶり焼け焦げた死体の転がる戦地に立ち「素晴らしい眺めだ」と呟く。
 これらの行為はすべて一人の、同一オッサンが行っている。
 傍目には矛盾している。支離滅裂である。つぶさに眺めていけばただの情緒不安定である。
 しかし、それでもどこか作中を通じて、このオッサンの行動にはどこかしら一貫性めいたものが感じられる。そのヒントは、映画開始まもなく本人の語った台詞にあった。
 草原に石造りの街門の残る遺跡にて、独り言のように呟くのだ。


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「ここだ。ここが戦場だ。
 市を守るカルタゴの兵士は、三方からローマの軍勢に襲いかかられた。
 そして勇猛に戦ったが、惨敗した。
 アラブの女達が、戦死者の衣服や装備を盗み、兵士は裸でうち捨てられた。
 2000年前の風景だ……そこに、ワシもいた」


 現実のパットン将軍も、どこまで本気だかわからないけれど、輪廻転生を信じ、自身をハンニバルの生まれ変わりだと称したことがあるそうだ。
 そう。この戦争が好きでしょうがない猛将は、ロマンチストなのだ。
 確かに戦争にはロマンがある。どれほど散文的に書かれた戦史だろうとも、どれだけ不毛だろうとも、人命に強い関わりがある以上、多くの人間にとって他人事ではいられず、それ故に普遍的に心を打つものがある。しかしそんなものがあったとしても、戦争というひどく巨大に散文的なものの中でどれだけの構成比率なのか。とんでもなく稀少なものなのではあるまいか。だとしても構わず、このおっさんは、下手をすると純粋とさえ形容できかねない勢いでそれを戦場を求める。
 二次大戦を人類最大の愚行と結論づけた後の世界の価値観に生きる私達にとっては、理解こそできても共感には遠い憧れだ。

 実際。もはや二次大戦下の時点でも――少なくとも、作品世界において、このロマンチストは世間から浮いていた。
 彼が戦争への憧憬を率直に口にするシーンでは、必ずといっていいほど、思想的偏りを避ける為のカウンターウェイトのように、むごたらしい戦場が同時に描かれる。或いは、臆病風に吹かれた兵士を恫喝する度に、仮想敵国へのあからさまな敵意を公表する度に、「もうそんな時代じゃない」と諫められ罰せられる。
 そうした手法で、率直に、彼の戦争への憧れと献身が異様なものとして視聴者に映される。
 事実として、戦争は一次大戦を境に、従来の戦争とは似て異なるものへと変容したらしい。もちろんかつての戦争にも略奪されるものや軍事費用に疲弊する国民は居ただろう。しかし単純に規模が違うし、意味合いも変わってくる。無差別爆撃が起き、非対称戦争がむしろ基準となり、仮想敵国を口にした政治家は民衆からバッシングを受ける。
 パットン将軍の自ら「ワシもそこに居た」と語る2000年前の戦争も、16世紀の戦争も、20世紀よりも過去に起きた戦争は全て遠い。


 その姿を、人を惹きつけてしまう戦争というものの体現ととらえるのもいいだろう。大義のための自己犠牲を強いるその精神が、副次的に戦争行為を強烈に肯定するその姿勢が、軍事大国であるアメリカの国民的英雄像として受け入れられたのも自然な話に思える。
 ただ私には、この映画にて描かれたパットン将軍の姿は、もはや失われ行くものの、あるいはとっくに廃れてしまったものへの憧憬を捨てきれず、諦めきれず、まだ存在するものと信じて足掻き尽くしたロマンチストとしてみえる。気がする。
 そうして観た方が、あらゆる時代の全ての戦争に姿と名を変え参加し、戦い続けてきたーとか語ってしまうこのおじさんには相応しい気がするのだ。
 彼の信じた「失われていく佳きもの」が果たして本当にいいものなのかどうなのか、もう私達にはわからないのだけど。


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 それはそれとして戦車の話をしようか!
 アメリカ戦車史のなかでも大事な位置を占めるパットン将軍のお話だけあって、名脇役として活躍の機会は多いです。
 多い一方で、米軍戦車も英軍戦車も独軍戦車もなんもかんも「あー。Mなんたらですねー」とアメリカ車輌ばっかりでしめられているのは残念なポイントではあるかも知れないけども、まあこの点をクリアできる映画のがよほど珍しいのでしょうがない。
 何よりも、ぬかるみの酷い十字路で戦車隊の交通整理を御自ら行うオッサンの姿がサイコーなので、未見のスジには是非とも一見求めたい。