戦車戦のこのへんが面白いよみたいな話。

 おおざっぱに戦車のかわいらしい要点を述べて参りましたが、それの性能を発揮しあう戦車戦がかわいらしくならないはずがありません。
 やはり兵器は戦場を走り回ってナンボ。そしてまた、戦車戦には戦車戦ならではの要素や駆け引きがどっさりあるのです。
 ガルパンでもさすがのこだわりの描写で、初見ではわかりづらかったり意図のわからない戦車の所作にもいちいち根拠があったりします。たぶん。
 しかしそれら魅力も一言で言い表すことができます。すなわちそれは


 もどかしい。


 これです。とにかくもどかしい。戦車戦 is もどかしい。
 戦車対戦車という構図で産まれる戦車戦独自の要素って、要するに「戦車につきまとう厄介な特徴」てのばっかりな気がする。
 あああああ頼むよそこで決めてくれよもおおおおおだとか、えええうまくいってたじゃんこれでもダメなのかよおおーだとか、あ、むりだわ。これ。無理無理。だとか。なんかそういうのが多い。
 そうした膠着を突破してこその爽快感。カタルシス。そう表現することももちろんできます。

 色々と細かい描写にこだわりの感じられるガルパンだからこそ、そのあたりの、戦車戦ならではの機微を察することができれば、勝負のアヤや展開の妙もなんとなく感じ取れて、ガルパンの複数回視聴にも深みと彩りがでてきたりするんじゃないでしょうか。
 するといいな。
 それでは、現実とフィクションの境目を区別する手段もなくそのへん順々に書いていきましょうか。 


視界がせめェ。

 いきなり映像作品ではオミットされがちな要素から攻めていきます。

 戦車の視界の狭さを体感するには、霜の降りた早朝、車に乗る前に指で運転席前フロントガラスにスリットを作ってみるといいらしいですね。雪が積もってると装甲圧も再現できてモアベター
 まかりまちがってもそんな視界で運転したいとは思えない怖さを体験できるそうです。
 とはいえ、装甲の前面にのぞき穴なんて付けちゃうと当然もろくなるんで、防弾ガラスで塞いでみたり、ガラスを組み合わせた潜望鏡(ペリスコープ)を装備が基本だったりと国や車種で様々。車種や国によってはこのペリスコープの出来が良いのもあったとか。

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これは……射座の覘視孔……かな?(紹介してる割によくわかってない。


 全天候型なんて望むべくもない限られた視界。それは運転手も砲撃手も同じこと。
 なので運転手は基本「進め!」も「止まれ!」も進行方向の指示も戦車長に言われないとわかりづらいし、砲撃手も、方角を指示されなければ敵影の発見さえ覚束ない。
 要するに、戦車長は目であり脳みそであるということ。どれだけ重要な立場かが察せます。
 であればこそ戦車長は「みぽりん、危ないよ!?」と言われようとも身を乗り出して状況把握に勤めますし、そうして得た視覚情報で的確に迅速に指示を行う必要が出てくるわけです。


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 やはり戦車から身を乗り出すのはドイツ戦車がよく似合う。
 実際にドイツの戦車長は身を乗り出しがちで、だからこそドイツは優秀な戦車長を多数輩出できたとも言われるし、一方でドイツはペリスコープの開発が遅れてたんでやむなくやってたという話もあるみたい。あと戦死率も高かったとか。

 その他にも、ちょっと茂みに隠れられただけで索敵が困難になったり、欺瞞工作に弱くなったりとか。
 そのへんの要素はしっかりガルパンのなかでも活かされてますな。

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 目と目があうー。


行進間射撃まじあたらねえ。

 このへんはガルパンでも大事な要素として描かれています。
 行進間射撃。文字通り、動いているあいだ(最中)に射撃すること。基本的に牽制目的のムダ撃ちと考えた方がいいくらい当たらない当たらない。
 第一話の「大丈夫だよ。滅多に当たるものじゃないし」というのは「(行進間射撃だから)滅多に当たるものじゃない」て意味もあったんじゃないかな。そうでもないかな?

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 いや滅多に当たらないにしてもだな……。


 考えてみれば確かに、まともに命中させるのが難しい要素がぽんぽん浮かびます。
 射撃が手動で、角度も距離もそれぞれ暗算でやらなきゃならない点。そのうえで20kmなり30kmの速度で(場合によっては目標も)移動最中に撃つとか。
 さらに移動最中の車体の揺れ。無限軌道で地をうがちキャタキャタピラピラと走ってりゃ車体はがくがく揺れるし、それに積まれた砲口だってぐらぐら。それでもって500mとか1000mとかいう距離に向かって放つのだから、誤差なんて勘定のしようがない。

 なので、ギュッと制動し、かつ、慣性での車体の揺れが収まってから撃つのが基本。
 逆に言えば「まともな砲撃は静止してないとできない」ってこと。これはなかなか大変なことで、停止という大きな隙を晒さなければ攻撃ができないという勝負のアヤが生じます。

 だからこそ、相手に発見されてない状態での砲撃や待ち伏せなどが有効であり、
 あるいは、至近距離のとにかく前に向かって撃てば当たる!! というシーンでの駆け引きが熱を帯びるわけです。

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 しかし誰もここまでやれとは(いいぞもっとやれ。


当たればいいってもんでもない。

 当てるのが難しい。というお話の次にコレです。当たりゃいいってもんでもねえ。
 ガルパンでもせっかく命中させたのにガインと装甲で弾かれる。そんなシーンが散見されますし、伝説の重戦車ティーガーと戦った量産型の代名詞なシャーマン乗りが「こちらの命中弾は簡単に砕け散った。まるでオレンジをぶつけてるようなもんだったよ」とか述懐してたりしましたな。

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 極端な例。


 ガルパンだと白旗がスコンとあがるけど、現実における戦車への有効打とは装甲の貫徹。
 分厚い鉄を貫き、穿った装甲そのものや砕けた砲弾が戦車内部を有り余る運動量でもって人員ごとめちゃくちゃにする。
 あるいはエンジン部や弾薬庫に命中し大爆発炎上などなど戦車道が特殊なカーボンでコーティングされてて本当に良かったな……という有様。

 どれだけ大砲に性能差があったとしても、装甲の貫通さえ果たせれば有効打になる。
 というあたりも面白いポイントではありますが
 それは装甲を貫けなけりゃどんだけ命中させても意味がない、というアヤも同時に生みます。

 貫通さえされなければどうということはない。ならば装甲を増そう鉄板の厚さを増そう。
 しかし厚くしすぎると重量に直接跳ね返ってきてしまい、速度が遅くなるとかならまだしも地面にめり込んでそもそも動けないなんてことになってしまいます。
 よって、用意できるエンジン出力との兼ね合いや、大事な部分の装甲厚だけを増すこと等で妥協点を探ります。
 この結果、たいていの戦車は「正面部分は重装甲」「側面の装甲は弱い……」「排気口とか外部に触れざるを得ないところは守りようがねえ」ということになりがち。

 それにより「敵側面に回り込んで砲撃」や「敵車両と対峙するときは正面を向ける」などなど細かいテクニックが生じます。その他にも角度を付けて砲弾を受けることにより実質的な装甲圧を増すという通称「飯時の角度」など。
 これは二次大戦中にドイツが戦車兵に配布したティーガーフィーベルという教本にも載ってる由緒正しい操縦法。

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 ほうら。ソーセージだって斜めに切った方が面積が増えるだろう?(わかりやすい。
 要するに、11時や2時の角度で砲弾を受けましょうという戦術。

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 内容はティーガーの扱い方を婦女子に例えて教えるという「萌える戦車教本」みたいな。


 そしてそれらは、ガルパンにおいて「戦車が停止している角度にさえ意味がある」という描写につながります。特に、皆が皆一定以上の経験を積んでいる劇場版だとその細かい描写は顕著。
 避けるだけでなく弾くという選択肢もあるのが戦車戦の面白さといえるかも(中に入ってる兵隊さんは『釣り鐘の中にいるようだ』つってたまったもんじゃなかったそうだけど。

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 知っているひとなら誰もが「飯時の角度!!」と叫んだであろう絶好のシーン。

 あと、貫通させる手段としては至近距離からぶっ放すという手段もありますな。
 距離が離れていればそれだけ、貫通に必要な威力が運動エネルギーによって削がれてしまうわけで、逆に言えば至近距離でぶっ放せばそんだけ攻撃力が増すといえます。逆に相手からの反撃もまた怖くなる捨て身の戦法ではありますが。
 しかも、そうやって懐に飛び込まないと勝負ができないような車両は、それだけでかい大砲を積む余力のない軽車両であることが多く、装甲もまた脆弱なはず。それを覚悟で敵に向かって突っ込むのは相応のくそ度胸もとい胆力が必要になるわけです。

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 みよ。この会長(ヘッツァーたん)の勇姿。


装甲以外の脆弱点もけっこーあるぞ!

 構造上、どうしても潰しきれない弱点てのはあるもんで。それが必要上どうしようもないものである場合とか、単に設計上のミスだったりとか色々なんだけど。
 例えばエンジンの廃熱部や車内の換気口なんかは外部と内部とをつながなきゃならないので脆くなりがちだし、
 戦車によっては前面下部にエンジンを設置したせいでそこを集中的に射貫かれたり、燃料タンクの位置がわかりやすかったんで敵にそれを周知されたり、あるいは砲身の付け根、砲塔と車体の境目付近も、旋回させなければならないんでどうしてもウイークポイントが発生しがちだったり……。
 このへんは戦車ごとに違ってくる特徴なので、戦車長にはそのへんの知識量も問われたりしそう。

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 シャーマンの装甲表示。http://gamemodels3d.com/worldoftanks/ より拝借。


 他は戦車の底。底部。「そんなもん撃てることあんの?」という感じではあるけど、戦車は基本的に縦長いので、稜線を越えるときは丸々晒してしまう上に、砲門もお空を向いちゃうので牽制も不可能と、丘を跨ぎ越すのはそれなりに注意を払わなければならない場面だったらしい。

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 どっこいしょお。

 

 あと、底も弱ければ天板も弱い。これまた「撃たれるもんなの?」というポイントだけど、こちらは、装甲に弾かれた砲弾が上に向かって跳ね返り、降ってきたものが運悪く突き刺さるというショットトラップて現象があったりもしたそうで。
 他、内部からの覗き口となる貼視孔も弱点だったりするけど、ソ連で対戦車ライフルを持つ狙撃兵は比較的至近距離からここを撃ち抜くべく狙いを定めてたそうで、狙う側にしても狙われる側にしてもきんたまの縮み上がりそうな話。

 装甲以外の話だと、どんなに重厚な戦車でも履帯を撃破されると動けなくなる。なんて脆弱なポイントもありますね。

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 実際、装甲を貫けない相手には有効ないやがらせだと思う。


 ……そういえば、履帯が破壊されても移動できなくなるだけといえば動けなくなるだけなんで、砲塔を動かして砲撃とかは全然できます。
 修理すれば動けるんで、だから戦車道でも白旗はあがらないみたいだけど。
 でも履帯が外れている最中に砲撃とか、そういうシーンないよね。あと履帯はずれた車体に追撃とかもしないし。
 修理中は危険なんで追撃は反則+ただし修理中に攻撃するのもダメみたいな細かいルールがあったりするんかしら。



 等々と、書いてみれば「言われなくても観てりゃわかるんじゃね」といった要素ばかりになったような気もしますが、あまり気にしないことにしつつまた次回。