戦車のここがかわいいよという話。

 ガルパンの波及効果がめざましく。ファンとしてほんのりと喜ばしい次第ではあるだけど。
 それとは別に「戦車かわいい……」「戦車まじかわいい」「戦車と散歩したい」「戦車を養子にとりたい」みたいな声が期待してたほどみられなくて首を傾げている昨今です。
 なぜだろう。あんなにかわいいのに。
 まあ。実際のとこ。感想はひとそれぞれ。それを個々人が文字とした際に「戦車カワイイ」の呟きが含まれてなかろうとも不思議がることはないのでしょうそう感じたか感じなかったかを問わずガルパン視聴者の深層心理にはもれなく無限軌道の残す轍がごとく「戦車かわいい」という感想は刻み込まれているはずだから。
 口にせずとも当人にさえ気付かぬ心の底の奥深くにね? うん、わかってるわかってる。
実際んとこそんだけの力と熱量のこもった作品だと思うのだけども。
 であればこそ、無意識下に潜り込んだ戦車カワイイ感情を呼び起こす助力をしたく思いこの文章をしたためる次第です。

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ここがかわいいよ戦車。

 といってもガルパンと同じく二次大戦中の戦車が中心のお話。
 あと、こっから先に語る「ここが面白いよ戦車戦」と「ここがかわいいよガルパンの戦車編」との予備知識ととらえて頂ければ。

 戦車という兵器は多くの矛盾や様々な感情を内包した兵器であります。
 畏怖、信頼、蔑視、厄介、自負……など諸々諸々。まあ戦車に限らずたいていの兵器がそうかも知れないけど。
 ともかくも戦車を、戦車をテーマとした作品に触れる度にその感情がない交ぜとなって、要するにこー、かわいらしく感じる不思議兵器な訳ですが、それを理解するのに肝要な点はおおむね一つ。


わりとポンコツ。

 と、要するにここが一番大事なポイントです。ここだけ押さえておけばもうほとんどの戦車はかわいいです。
 割とポンコツ。
 命を預けなければならない兵器なのに、国の存亡を賭けた兵器であるのに、結構ポンコツい。

 それもしょうがない部分はあります。
 第一次世界大戦の最中に産まれ、戦争の常識を作り替えつつ、自らも進化し続けたのが戦車。
 進化の余地があったってことはそんだけ未完成であり、実践にあたらなければわからないことも多く、改善すべき点や致命的な欠陥も各国の戦車各々が抱えておりました。

 曰く、走攻守どれも万全な戦車だけど居住性が劣悪で人の乗ることが二の次三の次な戦車だったり。
 曰く、戦場に顔を見せただけで敵兵が逃げ出すほどの無敵戦車だったけど生産性も燃費もメンテの手間もひどくて「これを作ったのが敗因だった」とまで言われたり。
 曰く、よく燃えたり。
 曰く、次世代の間に合わせのつもりで製造したのに様々な要素が絡み合って妙にたくさん生産されちゃったり。
 曰く、突然変異のようなすげー優秀さだけど完成が遅れて船で輸送されてる最中に戦争が終わったり。


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 「そもそもまともに動けねぇ」というたいへんわかりやすいポンコツ例。


 特に二次大戦中の戦車は(あるいは今の戦車もだろうけど)必ずと言っていいほどどっかに欠陥があった。
 敵からしてみると恐怖の具現。しかし運用する当人には欠点も目をつむって命を預けなきゃなんない厄介者。
 そういう虚実様々な逸話が各戦車にあります……そのいちいちがかわいくてねえ。そのあたりの話は後日としまして。


かたちが様々。

 先のお国柄にも通じる話だけど、当時はまだ各国によって差の大きかった製鉄技術や工業的精密さによって、思想だけでなく実際の戦車の形状にも国ごとの不可避な特徴が現れたりします。溶接に優れたドイツは直線的なフォルムの戦車が多いし、ソ連は同じ戦車でも工廠ごとにフォルムが変わったりとか。

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T-34の工廠違いのなかでも人気の高いミッキーマウス型。

 あるいは設計上の必然により「エンジンは後部に置いて守らなきゃなんないからなんか前につんのめったような形になった」とか「でっかい榴弾撃ちたいからって設計したら頭でっかちになった」とかの影響ももちろん如実に出ますし。あるいは、工業力が足りなくてリベット止めで間に合わせてたり……。
 要するに、なぜそんな形になったのかという点にも合理的な、あるいは不可避の事情によるものなど様々な理由があるということ。
 あと厳密には戦車じゃないけど、突撃砲や駆逐戦車みたいに砲塔をもたない戦車もあるわけで、それによってもまた見た目は大きく変わりますね-。

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 多砲塔に無砲塔の突撃砲。その奥に控える比較的普通の4号戦車ちゃん。


お国柄がでてて楽しい。

 そりゃ国防機密の兵器だしね。技術協力や武器貸与などあれども大国たれば基本は独自技術による兵器を持ちたがります。
 そこに「島国だし沿岸警備が中心になるならまず防御力でしょ」だの「大陸を走り回るんだから走行性は保証してもらわな」だの「戦争は物量だしウチの工業力活かして大量生産前提に設計すんべ」だの「え。戦車部隊とか作ってる暇も予算もないよ」と、基本思想の差違がのっかって国ごとの系統だった特徴が出てるのが面白いところ。
 ガルパンが国別対抗みたいな物語の仕立て方になった所以もこのへんに求められると思います。きっと。

 建築様式とか、服飾の模様なんかでも英国国旗な柄とかアメカジなスタイルとか、文字通りの国柄があったりするじゃん?
 あれと同じかわいらしさが戦車にも求められる訳ですよ。


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 長いこと「戦車は快速と歩兵補助の二種類で」という思考を刷新できなかったイギリス戦車は鈍足重厚なのが多い。
 マチルダⅡさんもその代表例。

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 アメリカさんの現代戦車エイブラムスは正式採用は30年前。しかも20年前に生産終了している。
 にも関わらず、レストアによる使い回しと、優れた基礎設計を基に改良を続け今でも世界水準の性能を維持している……という大量生産による合理性は二次大戦中の米戦車からの伝統。っぽい。


ひとがたくさん乗ってる。

 車両やお国の事情によりまたかわるけど、基本は4人から5人乗りなんかな。
 3人乗りだと人員の少なさそのものが弱点にあげられたりもするくらい忙しいのが戦車戦。
 そもそもエンジンと無限軌道で走り回り、かつてなかった速度でもって戦況をめまぐるしく引っかき回す元凶そのものが戦車で、しかも電子制御とかまだもうちょっとだけ遠い時代の話でしたから目視確認・指示・装填・操縦・砲撃・通信連絡と全部人力
 一人一人の責任が重大で、チームワークの求められる兵器が戦車。

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 なので、戦車長・兼・装填手・兼・砲撃手な桃ちゃんが多少ポンコツでも悪く言わないでやってくれ。


 人がいれば関係がありドラマが産まれ、そして人間性能が戦車の性能そのものを引き上げます。
 ついでに戦車の中で一週間も二週間も過ごさなきゃなんないこともあったそうで、チームの居住空間というか、家そのものでさえあり得た。
 兵器でありながらコンパクトなおうちでもある。このかわいらしさ!
 戦車映画なんかだと車内にずらずら靴下が干してあったり、エロピンナップや十字架がかけられてたりすることが多く雰囲気が出てたけど、あれらもなまじフィクションではなかったのだろうなーと想像する次第。

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 映像間の格差はともかく。


 戦車乗りは兄弟。戦車乗りは家族。
 ガルパンでもそのへんはこだわったポイントらしく、車内の資料集めに散々苦労した結果に専門家から「(車内に関しては)ガチで優れた一級映像資料」と評されるに至ったとかどうとか。
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 等々と。聞きかじりと思い込みで好き放題書き散らしましたが、この勢いのまま次回に続く。